【愛の本能 恋の前兆】










 顔に出ない酔っ払い程、たちの悪いものは無い。

 花道は痛感した――――。






 確か流川は花道の向かい側に座っていた筈。

 それが一体いつの間に……。

「お!流川!飲んでるか!」

「うす」

 花道がちょっと目を離した隙に、隣にはちゃっかり流川が座っていた。

 少し驚いたが、まぁ酒の席だ。

 そんなこともあるだろうと花道は大して気にしなかった。

 花道と宮城の間にやや強引に割り込んできた流川は、先輩に邪険にされることも無くむしろ歓迎されていた。

 宮城に呼ばれたから隣に移動してきたのか。

 そうかそうか。

 花道は1人納得して隣にいる三井と喋っていた。 

「あ?」

 ビールを飲もうとコップを持ち上げたらカツンと音がして遮られた。

 何事!と思い手元を見ると、茶色の瓶から琥珀の液体が花道のコップに注がれている最中だった。

「え?あ……流川?」

 花道は大層驚いた。こんなことは初めてだ。

 流川に酌をされている。

 トクトクトク…と注がれている間、流川は無言だった。無言で注ぎ口を見ている。

 花道も無言だった。無言で手元を……見るしかなかった。

「おっととっ!」

 呆然としていると、あっという間にコップはビールでいっぱいになった。

 溢れる寸前でコップを持ち上げた。泡が少し零れたので急いで啜った。

 啜っている最中、視線を感じたので横を見た。流川がこちらを見ていて目が合ってしまった。

 ズズッと啜っていた花道は、流川の視線にどぎまぎして啜るのを止めた。

 やっぱり流川は無言だった。

「あ〜………ありがとな」

 口元に少しついた泡を拭いながら言う。

「あぁ……」

「………お、お前も飲め!」

 花道はハハハと幾分渇いた笑いをしつつ流川へ酌をした。

 溢れる寸前で止めると、流川は軽くコップを持ち上げた後、一気飲みする。

「おお!良い飲みっぷり!もういっちょ!」

 花道は「流川って結構ノリが良いんだな!」と解釈すると嬉しそうにまた酌をした。

 そしてまた一気。

「なんだよ、流川!やるじゃねーか!」

 負けてられん!と思い、花道も手元のコップを空にした。

 すると流川が酌をしてくれる。

 グビグビっと飲み干す。

「ぷっはー!最高!」

 花道はなんだかとっても上機嫌だった。

 そして何時の間にか流川と2人で酌をしあいながら飲んでいた。

「流川!お前、結構良い奴だなぁ!」

 花道はまだそんなに酔っていない。

 意識はしっかりしている。でもやっぱり少しは酔っているのだ。

 流川の意外な一面を見たせいか、花道はご機嫌で流川の肩や背中をバシバシ叩いた。

 流川は相変わらずの無表情。酔っているのか酔っていないのか、区別がつかない。

「まぁまぁ!飲め飲め!」

 そう言いながら酌をする。

「どあほう………」

 背中をバシバシ叩く花道をチラッと見て、流川は花道の肩に手を回した。

 ぐいっと引き寄せられる。

「お?」

 思わぬ流川の行動におや?と思ったが、花道はまたしても酒の席だからと、何も考えなかった。

 がしっと背後から肩を組まれると、流川の体がぐっと近づいてくる。

 その場のなりゆきというか、流れというか。

 そういうものがあって、花道も流川の肩に腕を回した。

 傍から見れば、ただの酔っ払い2人が肩を組んでいるようにしか見えない。

「なんだなんだお前ら。もう出来上がっちまったのか!情けねぇ!」

 三井が面白そうに2人をからかった。

「そういうミッチーはもうヨロヨロじゃねーか!」

 花道は三井を指差し笑った。

「何!俺はまだまだこんなもんじゃ…っ」

 そう言って三井は立ち上がろうとしたが、あえなくダウンした。

 花道や他のメンバーもその様子をギャハハと笑う。

「なんだ、ミッチー。口だけかー!」

 そう言ってゲラゲラ笑っていた花道は、物凄い力で引き寄せられた。



 へ?



 疑問に思う前に、事は既に起こっていた。

「…………???」

「…………」

 花道の目の前には眉毛と閉じた目蓋と長い睫毛があった。

 物凄く近くて、最初は視線の焦点が合わなかった程だ。

 そして呼吸が苦しかった。息が出来ない。

 凄く苦しいから口を開いた。

 そうしたら口の中になんだかヌルヌルして熱い軟体動物のようなものが進入してきた。

 それが自分の舌に絡みつく。なんかナメクジっぽい。

 ヌメヌメしてて、ヌルヌルしてて、息が苦しくて、目の前にはなんか人の顔が…………。

「んぅーーーーーーーっ!!!!!」

 これでもか!と言う程花道は目を見開いた。

 流川の胸を強く押し、背中を逸らそうと思ったが、肩をがっしり拘束されて動けない。

 声を出そうとしても塞がれていてそれも出来ない。

「んーんーんー!!!!」

 流川!と言いたいんだが、喉を振るわせるだけで終わった。

 舌が容赦無く絡んできて、なんだか喉の奥にまで流川の舌が届きそうな感じがする。

 ビールの所為か、ちょっと苦い味がする。

 離れたいのに首の後ろを掴まれて、顎も抑えられて、自分の顔なのにびくともしない。

 仕舞いにゃ鼻息を荒くしてふんぬ!とばかりに背を仰け反らせるが、流川に先手を打たれた。

「んっ!」

 首に回されていた流川の指が花道の耳や耳の後ろ、首筋をくすぐるように撫でたのだ。

 流川は目を閉じて夢中で花道の舌を啜っていた。心なしか嬉しそうだった。

「おいおい!流川!桜木!お前らいくら仲が良いからって何やってんだー!」

 酔っ払った三井が、自分が笑われたのも忘れて、2人を指差して笑い転げている。

 宮城も酔っ払い2人を見て涙を流してゲラゲラ笑っている。

 花道は首が動かないので、目だけをグルリと周りに向けると周りの人間はみんな座興だと思っているのかなんなのか。

 助けようともせず、面白そうにこちらを見て………笑っていた。

「ふんぅーーーーーーーーーー!」

 笑ってねーで助けろ!!!

 必死で訴えるが、みんなある程度は酒が入っているので、目の前で繰り広げられる見世物に笑っているだけだった。

 そうこうしていると流川の舌はまた容赦無く花道の上顎やら歯茎やらにヌメヌメと這いまわっていく。

 深呼吸したい!と切実に思い、流川のTシャツを破けるかと思う程ぎゅっと握った瞬間、頭の中が白くなった。

「おい!」

「桜木!」

 最後に「どあほう」という流川の声も聞いたような気がする。

 みんなの声を遠くに聞きながら「後で覚えてろ、てめーら!」と堅く心に誓いつつ、花道は気を失った。





  


 流川のとった不可解な行動。

 酔ったことで本能が顔を出し、欲しいまま花道に口吻けたのか。

 それとも単にキス魔なのか。

 その疑問が解けるのは、そう遠い未来では無い――――――――ハズ。
























END













1年前にWEB拍手へお礼として掲載していたSSです。
ネタはWEB拍手から提供して頂きました。
内容は【無表情で酔っ払う流川。皆の前で花道になつきまくる。】
というものでした。どんなもんでしょう?(笑)
設定は大学生です。未成年はお酒飲んじゃいけません(笑)
そんで2人はまだデキて無いらしい。
読み返して思ったけど、流川はどの時点で酔ってたんだろう。
花道の横に移動した時かな。それとも花道と肩を組んだ時かな。
書いた自分も思い出せない(汗)
内容はともかく、夏はビールってことで(笑)


(2004年6月6日初出)








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