【天使かも】
【1087祭2005】様よりお題を拝借(ノンジャンルNo.16)
空は夜でもないのに真っ暗だ。
仙道と花道がスーパーの中へ入ろうとした時、丁度雨が降ってきた。
それは最初から凄い量で、二人は急いで店の中へ入った。
レジで支払いを済ませ外へ出てみると、雨は上がったばかりだった。
地面は土砂降りの所為で大きな水溜りがいくつも出来ていて、空はまだ黒く分厚い雲に
覆われていた。
しかしこの分だと晴れるのは時間の問題だろう。
二人はビニール袋を両手に下げて、一人暮らしの仙道の家へ歩き出した。
「あ……」
「何?」
突然声をあげた花道を見ると、彼は遠くの空を見上げていた。
つられて同じ方向を見上げると、そこには―――。
「スゲー綺麗だ、あれ」
「あそこだけ雲が割れてるんだな……」
そこには黒く分厚い雲の一部が裂けて、太陽の光が地上へ一直線に光の筋を作り出していた。
「桜木、あれ何て言うか知ってる?」
「知らねー。名前なんてあんのか」
「あれは【天使の梯子】って言うんだ」
「テンシノハシゴ?何だそれ」
「ヨーロッパでは【天使の梯子】って呼ばれてる現象で、向こうの人は天使があの光を通って
地上へ降りて来るって考えてるのかもね」
「ふーん」
仙道の解説を聞きながら、花道はまだそれを眺めている。
足は自然と止まってしまった。
「なんか…アレみてぇ」
「アレ?」
「ええっと…アレだアレ。犬のヤツ。フラン●ースの犬」
そう言われて一番最初に思い出したのは非常に有名な例のシーン。
「あぁそう言えば似てるな……」
教会でネロとパトラッシュが永遠の眠りについた時、天井から眩い光が射し込み、
その光を通って天使達が降りて来る。
そして眠りについた彼らを天へ導いて行くのだ。
「似てるけど、悲しいな」
「なんで?」
花道は不思議そうに仙道を振り返った。
「だって死んじゃうんだし。悲しいだろ?懐かしアニメ特集の時はいつも感動するアニメで
絶対出てくるし」
仙道は何を当り前のことを、と言いたげな顔をした。
「……そんなことねーと思うけど」
「どうして?」
「だって嬉しそうじゃん、あいつら」
「嬉しそう?」
花道は少し笑った。
「だってあいつら笑ってたぜ、一緒に行くとき」
「………そうだっけ?」
「そうだよ。嬉しそうに笑って、みんなで空に昇ってくんだ」
だからきっと天国って良いところに違いねー。
楽しそうに笑って花道が言うので、仙道は一瞬痛ましげな顔をした。
花道の両親は既に他界している。そのことを思い出したのだ。
彼の両親が行った場所は【良いところ】なんだと、花道自身が思っているのかもしれない。
「あの真下って、どうなってんだろ…」
ふいに花道が言ったので、咄嗟に答えられなかった。
「やっぱり連れて行かれるんかな、あいつらに」
「…………」
「だとしたら俺がネロで、お前がパトラッシュだな」
「……俺が犬?」
眉尻を下げてそう言うと、花道は愉快そうに笑った。
その笑顔に仙道はホッとした。
まるで天国へ行きたい、と言っているみたいで怖かった。
花道からそんな言葉を聞くとは思ってもいなかったから。
(でも、一緒に行けるなら…良いかな)
導かれて空へ昇るなら、二人一緒が良い。
仙道は隣で空を見上げてニコニコしている花道が、なんだかとてつもなく尊い存在に思えた。
でもきっと桜木はネロじゃない。
むしろ桜木が天使かもしれない。
桜木は天国に帰るんだ。
あの物語で言えば、導く方だ。
そして俺は桜木に連れて行って貰うんだ。
桜木が連れて行ってくれるなら、その時はネロ達のように嬉しそうに笑える気がする。
【天使の梯子】を一緒に昇って行けるのなら、それはそれで本望だ。
仙道は花道の歩幅に合わせてゆっくりと歩き出した。
桜木が天使だなんて。
あまりにもキザで恥ずかしいことを考えてしまい、苦笑いが込み上げてくる。
でもあながち間違いでは無いと思う。
苦笑いしつつ、仙道は自分の感覚に満足していた。
「桜木」
「ん?なんだ?」
「行くときは、俺も誘ってくれよ」
「は?」
きょとんとする花道へ心の中で呟いた。
(行く時には、俺も絶対連れてってくれよ?置いて行かないで)
首を捻る花道を見て仙道が笑う。
仙道は右手の買物袋を左手によいしょと持ち替え、そっと花道の手を握った。
水溜りが太陽の光を弾いてキラキラ光っていた。
花道は天使だと言いたかったんです。
私にとっても、それから仙道にとっても。
花道の背中にはきっと羽が生えているに違いない(笑)
天使の梯子は他にも「ヤコブの梯子」と呼ばれます。
検索サイトなどで探すと写真を見ることが出来ます。
私もたまに実物を目にしますが、じっと見ていたくなるほど綺麗です。
(2005年7月10日初出・仙花の日万歳!笑)
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