【晴子の手紙】
流川は濡れた髪をガシガシとタオルで拭きながら、畳に座った。
どれ、テレビでも着けようか…と思い視線を動かした瞬間、幾分くたびれた
それが目に入ってきた。
手紙だった。
何度も何度も読み返して手垢がついてボロボロだ。
「…………」
人の手紙を盗み読みするのは決して良い事とは言えない。
けれど、知っておく権利はあるはず。
おかしな理由をつけつつ流川はそれを摘んだ。
差出人は赤木晴子。
現在のマネージャーだった。
「…………」
流川は首にタオルを引っ掛けたまま、ガサガサと中身を取り出して読み始めた。
「ふんふーん、天才〜♪」
風呂から出た花道が流川の居る居間へ、同じく濡れた髪をゴシゴシと拭きな
がらやってきた。
「ぬ?流川、何やってんだ」
視線を落として流川のあぐらをかいた足の辺りを見る。
「げっ!!」
花道は流川の読んでいるそれが何か直ぐに分かった。
顔を真っ赤にして流川に飛び掛る。
「…………」
流川はそれを軽く避け、手紙をその辺へぽいっと投げた。
古びた手紙はヒラヒラと居間の隅へ飛んでいく。
「てめー!晴子さんの手紙を!なんてことしやがる!」
急いで拾いに行こうとした花道をがっちりホールドする。
「放せー!うがー!!」
逃げようともがくほどギリギリと固い腕が体を締め付けてくる。
再び怒鳴ろうとすると、ホールドが解かれた。
そして二の腕を掴まれ引き寄せられる。
「何す―――っ」
物凄い力で腕を締め付けられ、文句を言ってやろうと流川の顔を見た花道は
言葉に詰まった。
とても近くに流川の真っ黒い瞳が迫っている。
やけに真剣な顔つきに花道は戸惑った。
「な、なんだよ………」
ビクビクしていると、流川が口を開いた。
「良いか、良く聞け」
「んだよ………」
「………俺がお前の傍にいるのは、義務でも同情でも、ましてや【仕事】でも無い」
「はぁ?何だそりゃ。じゃぁ何でだよ」
花道は流川の気迫に押されて、思わずそう聞いてしまった。
後から聞いて失敗した!と思うのだが、もう後の祭りだ。
どうせ流川のことだ。
『好きだからに決まってる』
とでも言うんだ。
流川の考えていることは全てお見通しだ。
なんせ天才だから。
そんなことをつらつらと考えていた花道は、目が点になった。
「本能だからだ」
「…………」
「俺の【本能】がお前を欲しがってんだ。一緒に居たいって訴えてくんだ」
「…………」
「……まぁ、そういうことだから」
ドスッ!
流川は一気に花道を畳に押し倒した。
「ぎゃー!」
このケダモノー!!!
花道の悲鳴だけが、部屋に虚しく響いた。
その晩、結局花道は風呂から出たばかりだというのに激しい運動をする羽目
になり、汗をかいたまま眠らなくてはならなくなった。
その横には花道を抱きしめて横たわる、同じく汗まみれの流川が居た。
腕の中で眠る花道の髪を優しく梳きながら、部屋の隅に放置された手紙に
目をやった。
『これから毎週バスケ部の状況とか手紙で送ります。それが私の最初の仕事です。』
マネージャーからの手紙。
そこには【仕事】と書いてあった。
完全に言い切っている。
自主的に花道に手紙を書いているというより、マネージャーの仕事としてやる
べきことをやっている。
そういうニュアンスにも取れる。
頑なに文通だと信じている花道に、もっとハッキリ言うべきかと思った。
『この女は単なる仕事で手紙を書いてるだけだ。ようするにレポートみてぇな
もんだ』と。
それに晴子は、毎週手紙を書いて済ませようとしていた。
この程度のことなら、週に1度でも花道の元を訪ねて自分の口から報告すれ
ば済むのに。
流川なんて、自主トレと称して、週の半分は花道の様子を見に海岸へ足を運
んでいたというのに、だ。
だが、どうせ花道は流川の言うことには耳を貸さずに臍を曲げるに決まってる。
そう咄嗟に判断した流川は、手っ取り早く押し倒すことにした。
とはいえ、花道に言ったことは事実だ。
流川の本能がいつもいつも『こいつが欲しい!』と訴えてるのだから。
(アレはどっかに隠しとこう……)
あの手紙を捨てたり燃やすのは簡単だが、そこまで非道になれない。
だったら見つかり難いところに隠してしまおう。
流川はそんなことを思いながら、眠る花道の頬へ口吻けた。
END
原作のラストを読んでて凄く引っ掛かったんですあの手紙が(笑)
なので私の気持ちを流川に代弁して貰いました(笑)
今年は連載終了してちょうど10年というある意味節目の年。
あらためて原作のありがたさを噛締めつつ、流花に精進して
行けたらと思います。(しかし10年なんてあっちゅー間だ…汗)
ちなみにこれも初出はWEB拍手のお礼でした。
(2004年10月22日初出&2006年1月7日加筆修正)
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