【little prayer】
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突然、何の前触れも無く行動したくなる時がある。
きっとそれは誰にでもある衝動だろう。
むしょうにカレーが食べたい。
むしょうに漫画が読みたい。
むしょうに運動がしたい。
そう、誰にでも起こり得る衝動だ。
誰にでも………。
食事も終わり、ケーキも食べて。
皿も洗って、お風呂も入って。
楽しかったクリスマスももうすぐ終わる。
花道は眠そうにテーブルに肘をついて、クリスマスのお笑い特番を見ていた。
そしてたまに欠伸をしている。
その様子を眺めていた流川は、のっそりと移動した。花道の背後に。
「何だよ」
「何でも無い」
「何でも無い訳無いだろーが」
花道は突然背後へやってきた流川を胡散臭そうに振り返った。
流川は何を思ったのか、花道の体を両足で挟むようにして座り込んだ。
「……何だこれ」
そう言って流川の膝の辺りを叩く。
「足だ」
「………」
ボケなのか天然なのか、たまに流川が分からない。
「足だけど、肘置きにしても良いぞ」
肘置き?何だそれは。
花道の半分眠りかけの脳みそにはハテナマークがピョコンと浮かんだ。
そうこうしているうちに、腹へ手を回してきて背中に流川が張り付いてきた。
「何やってんだよ」
「別に……」
そう言って背後から花道の肩口に額をグリグリと押し付けてきた。
そしてギュッとしがみついてくる。
「眠いのか?」
「違う……」
「んじゃどうしたんだよ」
「…なんかむしょうにこうしたくなった…」
「しょうがねぇなぁ…」
花道は呆れたように溜め息を漏らした。
腹へ回した腕に力を込めて引き寄せると、花道の体重が流川へ掛かる。
自然と背中を預けてきた花道に、流川は小さく唇の端を上げた。
「良い背もたれだぜ。この肘置きもなかなかだな」
そう言って流川の膝の辺りをニヤニヤ笑って軽く叩いた。
体格が同じくらいなので、丁度二人の頭が同じ位置にくる。
花道は後頭部を流川の肩へ乗せた。
流川を僅かに下から見上げるその仕草は新鮮だ。
「お前、ふかふかで気持ち良い」
流川が花道の耳元でそう囁くと「俺はぬいぐるみか!」とまさに打てば響くような反応が返ってきた。
「そういうおめーはぬいぐるみを抱っこしてるガキだな」
前髪を摘んで引っ張りそう言うと、流川はお返しに花道の頬を軽く抓った。
「ふぬ!やりやがったな。お返しだ!」
すると今度は花道が下から両手を伸ばし流川の両頬を引っ張った。
「………にょあほう…」
「あぁ?何だってぇ?」
いつもの台詞が間抜けな顔と一緒に放たれると、花道はおかしくて仕方なかった。
この腹立つ台詞も今は許せる。
流川の頬を離すと、そこは少しだけ赤くなっている。
気が済んだのか、どっしりと流川に背中を預けた花道は、笑みを浮かべつつふぅと一息ついた。
目を伏せてゆったりと笑みを浮かべたその表情が、上から見るとまた新鮮で、とても綺麗だった。
「眠いのか?」
今度は流川が花道へさっきと同じ質問を返すと、花道は小さく頷いた。
「少し眠くなってきた、かも……」
「そうか…」
花道が欠伸をすると、流川はあやすように体をゆっくり左右に揺すり始めた。
ゆらゆら、ゆらゆら、と。
花道はゆりかごのような優しい揺れと背中から伝わる体温に一気に眠気に誘われた。
一方流川は流川で、花道の体温を包み込んでいたら、同じように眠くなってきた。
しかし、腹に回した腕にそっと添えられた花道の手に目を見開いた。
それはまるで、自分に回された腕が知らないうちに離れてしまわないように留めている。
そんな感じだったから。
流川はそれに気付いてうっすら笑みを浮かべた。
誰が手を離すもんか。
頼まれたって、金を積まれたって、離さない。
腕の中に花道がいる。
そのことにとても安堵する。
肌を直接合わせなくても、こうしているだけで満たされる。
暖かいその体。
力いっぱい抱きしめても折れる心配の無い体。
腹に回した腕が呼吸と共に確かに動く。
自分のものをしっかりとこの手に掴んでいるという確かな感触。
ずっとこのままで居られたら良いのに。
「……ぅん…」
微かに身じろいだ花道の寝顔を見下ろし、そのこめかみに唇を軽く押し当ててしっかり花道を抱え直す。
そして流川は祈るように目を閉じた。
どうか今日と言う日が終わっても、ずっとこのまま一緒にいられますように。
―――Merry Christmas.
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WEB拍手から頂いたネタより書かせて頂きました。
ネタは【花道の背中にはりついてお腹に手を回して抱っこしてるルカワ】でした。
ラブラブでちょっとしっとり。
たまにはこんなゆったりまったりな二人も素敵かも。
ネタを下さった方、ありがとうございました♪
MerryChristmas!
(2004年12月25日初出)
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