【シャンプー】( 2009年改訂版)
「だよな!」
「すっげーよな!」
「やっぱこう…フワァ……ってな!」
「うんうん、そのとーり!」
部活の休憩時間。
バスケ部の面々はさまざまなスタイルで休憩時間を満喫していた。
なかでも分かり合った男二人桜木花道と宮城リョータは格別のうるささだった。
二人は暑さの為に左右に大きく開け放った体育館の扉に座り込み、肩を並べて涼んでいる。
そして何やら熱く語っていた。
「こう…横切った時とか…」
「近くに寄った時とか…」
「風が向うから吹いてきたりとか…」
2人は目を合わせてハモった。
『やっぱ、良い匂いだよな〜!』
そんな2人の近くでこっそり話しを聞いている人物が一人。
(何の話をしてんだ…?)
流川は滴り落ちる汗をタオルで拭いながら、耳はしっかり会話を捕らえていた。
「甘い匂いがすんだよなぁ……」
「そんでサラサラ……」
「何のシャンプー使ってんだろ……」
(なんだ、シャンプーの話か…………)
ふん、と鼻息を洩らしつつ流川の目はタオルの陰でキラリと光っていた。
翌日。
「何かさぁ……」
「うん………」
「何か…甘いよな」
「うん………限りなく」
「良い匂い、だよな」
「…………一般的に言えばね」
一斉に聞こえてくる溜息。
「流川、一体どういうつもりであんな―――」
「どういうつもりも何も、そのまんまじゃないの?」
「そのまんま………」
「そのまんまねぇ…」
部員達の視線の先には花道と、彼に接近するいつもとはちょっと違う流川がいる。
「あんだよ、流川!さっきから目の前をチョロチョロと!邪魔だ!」
「………」
「な、なんだよ!」
流川にじっと見つめられて花道はたじろぐ。
何か訴えているらしい。
「ふー…どあほう」
「あぁ!?何でそこでどあほうなんだよ!」
「鈍い。鈍すぎる」
「何がっ」
そこで流川はずいっと体を花道に近づけた。
「なんだよ……」
「匂いすんだろ」
言外に「嗅げ」と告げている。
「に、匂い……?」
「そうだ。サラサラでイイニオイ……」
流川は花道の為にシャンプーを変えた。
変えたというより、家にあった姉専用のシャンプーをちょっと拝借したのである。
そのお陰で朝から学校中が大騒ぎだった。
特に女子が。
「はぁ?何がサラサラだって?」
花道は胡散臭そうな顔をして流川を睨み付ける。
仕方なく流川は花道の頭を掴んで、自分へ引き寄せる。
「髪の毛、サラサラでイイニオイ……すんだろ」
流川は自信満々そうに見えて少しドキドキと緊張していた。
花道は喜んでくれるかなぁ……と期待して。
―――しかし現実はそう甘くない。
「俺、風邪引いて鼻詰まってるから匂いなんてわかんねーよっ!」
そう言ったかと思うと、マネージャーに呼ばれて花道は流川を放置してさっさとその場を去って行った。
後には「ずーん…」と暗く沈んだ流川が立ち尽くすばかりだった。
そしてそんな状態の流川を見守る流川ファンの女の子達。
「やーん!流川くん、スッゴク良い香り!」
「あの香りって、アレだよね。ピンクのボトルの!」
「そうそうあれだよ!うちのお姉ちゃんが使ってるんだけど私はあんまり好きな香りじゃなかったんだよね。でも流川くんも使ってるなら今日から使う!」
「私、帰りに買う!」
「あ、私も!」
「マツ●ヨ、寄ってこ!」
「行く行く!」
その日の放課後。
湘北高校女生徒御用達の駅前マツ●ヨでは、某シャンプーが店の在庫を含めて全て完売したとかしないとか。
……これも一種の経済効果?
END
初出が4年前です。ひー!なんて古い!(笑)恥ずかしい!
これは当時WEB拍手へお礼として掲載していたSSです。
いままで掲載するのを躊躇ってたのですが、蔵出し気分で
載せることにしました(汗)だってあまりにも短いんだもの!
改訂版と銘を打っていますが単に不都合な点を修正しただけ
です。流川のシャンプーはちゃんと商品名を紹介していたん
ですが、今回は曖昧にしてあります。ちなみに商品は
「ハー●ルエッセンス」でした(笑)
改訂にあたりタイトルも変えました。旧タイトルは「花の香り」です。
4年も経つと色々不都合が出てくるものですね…(汗)内容は
全くいじっていません。表現を変えたりタイトル変更しただけ
なので読む分には影響無いかと思います。個人的意見ですが、
流川は固いツヤツヤした黒髪。花道はふわふわで細い猫っ毛
だと良いなぁと妄想を抱いております…(笑)
(2005年7月8日初出)
novel-top