【サニーサンデー】











 手を繋いで登下校。

 花道のささやかな夢だ。

 高校に入ったら可愛い彼女を作って、手を繋いで一緒に登下校する。

 …しかし現実は違った。

 確かに恋人が出来た。

 出来たのだが……それがたまたま男だったのだ。

 それだけの話だ。

 それだけの………。







「アイス食うか」

「食う!」

 流川と花道は揃ってコンビニへ寄った。

 練習の無い日曜日。

 2人は揃って歩いていた。

 さっきまで公園でボールを追いかけていた。

 2時間程動いた後、こうして海辺へ向かって散歩することにしたのだ。

 今日は非常に良い天気だ。少し歩くだけで汗ばんでくる。 

「ありがとうございましたー!」

 コンビニのお姉さんの声が響いた。

 花道は奢りのガリガリ君を頬張った。

 流川はチョコモナカに齧り付く。

 適当にぶらぶら歩きながら食べるアイスは美味しい。

「あ………」

「…………」

 思わず2人は立ち止まった。

 道端で繰り広げられているソレに釘付けにされてしまったのだ。

 一匹の犬が、もう一匹に圧し掛かっていた。

 交尾だ。

「…………」

「…………」

 忙しなく動くオス。

 前足がまるでメスを拘束しているかのように見える。

「…………」

「…………」

 花道は驚くほどオロオロしていた。

 頬が火照ってきた。

(なんで、よりによって【今】やってんだ、おめーらはっ)

 こんな……。

 流川と一緒に歩いている時に、こんな場所でやらなくても良いだろう!

―――2人は付き合い始めてまだ数週間しか経っていない。

 キスはしたが、それでもまだぎこちない雰囲気が抜けない。

 花道はめちゃくちゃ動揺していたが、どうしてそんなに動揺するのか
実はよく分かっていない。

 それは小学生の男の子や女の子の反応と似ている。

 興味や好奇心が強く、しかし見ているものが何を連想するのか理解
しているので、見ていること自体がいたたまれない。

 興味や好奇心で見ていたいけれど、連想させるものを想像して気まずい。 

 そんな感じだ。

 結局、溶けたガリガリ君の汁が手に零れて、花道はようやく我に返った。

 はっとして、慌てて汁を舐め、ガリガリ君を齧った。

 平気な顔をしてアイスを食べながら、2人はそのまま犬の傍を通り過ぎた。

「…………」

「…………」

 2人共、なんとも気まずい沈黙のまま海を目指す。

 花道は流川の様子が気になったので、チラッと横を向いた。

 流川と思い切り目が合った。

「…………」

「……なんだよ…」

 何か言いたそうな視線に、花道は思わず少し拗ねたような声を出した。

「別に」

「なんなんだよ」

「なんでもない」

「うそだ!」

「ホント」

「なんだよ!言いたいことがあるならハッキリ―――っ」

「…………」

 言えよ!と続けようと思ったが、流川がじーっとこちらを見るので言えなかった。

 なにやら意味深な視線だ。

「…………」

 そして花道から視線を離しチョコモナカを齧る。

 ムニュッと溶けたバニラがモナカの外にはみ出した。

 流川はそれに気付き、舌でぺろっと舐める。

 花道はその仕草に一瞬だけ鳥肌がたった。

「どあほう?」

「!」

 花道はビクッと肩を揺らし、そんな動揺を振り払うようにアイスを全部平らげた。

 そしてスタスタ早足で歩き、自動販売機の横にあるゴミ箱へぽいっと棒を捨てた。

 捨てたかと思うと、またスタスタと歩き出した。

「どあほう」

 流川は花道の耳が真っ赤であることに気付いた。

 どんどん先へ進む花道の後姿を無言で見ていた流川は、歩幅をそのままに
チョコモナカの最後の一口を頬張った。

 花道が捨てたゴミ箱へ同じく屑を捨てて、今度は流川が早足で花道の後を追った。

 追いついた流川は、花道の隣に並んでスタスタ歩く。

 花道もスタスタ歩く。

 次第に歩幅が緩くなり、最初の速度に戻った。

「…………」

「…………」

 また沈黙が続いたが、そんなに気まずい感じはしなかった。

 流川はそんな花道の横顔をこっそり盗み見て、花道と手を繋ぎたいなと思っていた。

 ぶんぶんと振られる花道の手。繋げないのが残念で仕方無い。

 そんな視線に気付いたのか、花道がこちらを向いた。

 一瞬目があった。

 流川は自分の手の甲を花道の手の甲へ、チョンと触れ合わせた。

「………むぅ」

 花道は照れくさそうな拗ねたような顔をしていたが、嫌がらなかった。

「………」

(さっきのアレ、相当意識してんな……)

 流川は交尾を見て、そのうち俺らも…なんて考えていた。

 付き合っているんだから、そりゃいつかは…と思うだろう。

 花道が「言いたいことがあるならハッキリ言え」と言うので、あの時は思わず
「そろそろ俺らもやろうぜ」なんて言いそうになった。

(まぁ、別に焦ることはねぇ。なんせまだ【登下校】レベルだからな……)

 流川は当分お子様的恋愛感を持つ花道に付き合うつもりでいた。

 多分そのうち自分は我慢出来ずに強行突破なんてこともあるだろうが、それはそれ。

 流川自身この状態を楽しんでいるんだから、誰にも文句は言わせない。

「流川…。オメー、何ニヤニヤしてんだよ」

「別に…」

「言えよ!」

「嫌だ」

「テメー!白状しろ!」

「どあほう」

 そんなやり取りをしていたら、目の前はもう海だった。 





「キツネ!」

「どあほう」

 



2人の妙に楽しそうな会話は、波に弾かれた。

















END










1年前にWEB拍手へお礼として掲載していたSSです。
ネタはWEB拍手から提供して頂きました。
内容は【初々しい流花】。………全然初々しくねぇ!(滝汗)
初々しいのは花道一人で、流川は下心アリアリ。駄目じゃん…。
やっぱり何かを食ったり飲んだりしてるシーンを書くのが好きです(笑)
今回はアイス。モナカって最後の方食べるの難しいよね…。
流川は年がら年中花道にどっきりしっぱなしなので、たまには花道も
流川にどっきりするのも良いかなと思って書きました。
それにしても1年前の話を読み返す行為って本当に拷問だ(汗)




(2004年6月6日初出)





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