【バニラフレーバー】
「あ〜、冷てぇ!」
「最高だな」
花道は堤防でアイスを頬張っていた。
目の前には穏やかな青い海と釣竿が二本。
隣でニコニコと上機嫌でバニラのカップを抱えている花道がなんとも微笑ましくて、仙道もしらずしらずのうちに笑みを浮かべる。
「バニラ頂戴」
「イヤだ」
「即答するし…。そんなこと言わないで。ちょっとで良いから」
ケチだなぁと子供のように口を尖らす仙道。
「んじゃそっちは何くれんだよ」
仙道はもう食べ終わっていて、コンビニの袋にゴミが突っ込んである。
「そうだなぁ……お――」
「【おれ】とかいうオチはいらん!」
仙道の言葉を思い切り遮った花道に、バレバレか〜と大げさに嘆く。
「別に良いけどさ……」
「………」
「天才バスケットマンってのは、きっと懐が大きいヤツのことを言うんだろうなぁ……」
「………」
「俺はそんな懐の大きな天才バスケットマンにバニラを奢れただけで幸せです。さらに食べて頂けるだけで天にも昇るようデス。うん。ホントに」
「………」
「……ハァァァァァ……」
とどめに大きな切ない溜息なんぞを付け足されてしまうと、花道はなんだか自分がとても小粒なヤツに思えてきた。
どうしてここまで言われなきゃいけないんだ。なんかおかしい。
しかし、上手い反撃が出来ないので結局仙道にバニラを少しだけあげる事にした。
「俺は心が広いからな!」
でもちょっとだけだぞ!
そう言ってズイッとカップを差し出した。
「食べさせてくれたらもっと嬉しいのにな〜」
と言う仙道の要求を「寝言は寝て言え!」とばかりに軽く無視した花道は、相手を睨み付けた。
その顔は「沢山食ったら許さない」と告げている。
仙道は、そんな花道を愉快そうに眺めてカップを受け取ろうと手を伸ばした。
「あ?」
てっきりカップを受け取るのかと思っていたら、花道の被っていた麦藁帽子を外された。
不思議そうにする花道の顔と自分の顔を麦藁帽子で陸側から隠す。
チュッと軽い音がした。
その間勿論バニラが零れないように、カップを持つ花道の手を支えるのを忘れずに。
花道は目を丸くして、やがて耳まで真っ赤になった。
「な、何……っ」
「零れるよ?」
平然とした顔で指摘すると、花道は慌ててカップを持ち直した。
思わずそれを握り潰すところだった。
握りこぶしの手の甲で唇を抑える花道は、上目遣いで仙道を睨む。
「お前なぁ!う…後ろ隠したって、前は海なんだから、船から見られたらどうすんだ!」
小声で怒鳴る花道に、大丈夫だよと仙道が笑う。
そして持ったままの麦藁帽子を花道の頭にポスッと乗せた。
「全然大丈夫じゃない!」
バニラのカップを足元に置いて、よし一発殴ってやる!と椅子から腰を浮かした。
その時。
「かかった!」
「何ぃっ!」
仙道の叫びに驚いた花道は「そっちも!」と言う仙道の声に、自分の竿を見た。
確かに竿が引いている。
色々喚きながら、二人は見事に魚を釣り上げた。
「すげーな、桜木。初めてなのに随分デカイの釣れたじゃん」
「ふんっ!天才だからな!このくらいトーゼン!」
花道が釣り糸を掴み、釣れた魚を自慢げに持ち上げ踏ん反り返る。
そんな様子に仙道がしきりに感心していると、魚がビチビチッ!と最後の悪足掻きのように盛大に跳ねた。
「うわ!!」
「あぶねっ!」
釣り針から抜けそうになった魚を二人は慌てて捕まえた。
「……」
「……」
思わず顔を見合わせた二人は一斉に吹き出す。
「危なかったぜー!」
「まさにセーフだな」
「もう逃がさねーぞ!」
そう言って花道は海水の入ったバケツへ魚を放した。
そんな花道を眺めている仙道はまだ笑っている。
「桜木、楽しいだろ?結構」
「まあな!思ったよりおもしれー!」
満更でもなさそうに花道が言った。
最初は、1ヶ所にじっとしている釣りなんてどこが面白いんだ?と思っていた。
けれどこうやって実際やってみると海風も気持ち良くて、退屈しないものだ。
仙道が釣りが好きなんて似合わないと思っていたのだが、今ではとても「らしい」気がするから不思議だ。
「また来る?」
「おう!」
今度来た時はもっとデカイのを釣ってやる!
そう宣言する花道に俺も負けないよ?と言ってみる。
きっと返って来る答えは……。
「勝負だ!」
予想通りのセリフに仙道は破顔した。
「負けらんねーな」
花道は「俺が勝つ!」と言いながら、バケツを覗き込み釣ったばかりの魚を嬉しそうな顔で子供のように突付いていた。
ついさっきの出来事なんてもうすっかり忘れてしまったのだろうか。
さっきのキス。
冷静に考えてみれば、たとえ陸側を麦藁帽子で隠していても、デカイ男二人の頭が小さい帽子の向こう側で接近していれば、何をやっているのか丸分かりなのに。
仙道は花道のそんなちょっと抜けてるところも可愛くて仕方ないんだ、と思う。
そして、すっかりドロドロに融けたバニラを目に止めて、仙道は今度こそ声をあげて笑った。
END
拍手への粗品として掲載していました。
もうすっかり忘れてました存在を……(汗)
何か載せてない話あったかなぁとPC内を漁ってみたら、
ひょっこり出てきました(笑)でも読み返しておかしなところを
発見したので少しだけ手直ししてしまいました。直すのは
好きじゃなくて、そのまま載せたい派(ある意味羞恥プレイ)
なんですけど、どうしても見過ごせなくて(汗)
内容は全く変更してないので(表現をやや変えたくらい)、
当時の話を覚えている方(…居るのか?汗)でも気にならない
と思います。多分……。こういう気軽なラブラブネタって
書きやすくて好きです(笑)ラブな一コマ…。この二人は絶賛
お付き合い中です(笑)本文に出てこないからここでフォロー(笑)
(2005年7月8日初出 2007年6月17日改訂)
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