ZERO






「ふぁぁ…」

 暖かな陽気の中、屋上で昼食を取っていた花道は大きな欠伸をした。

「…10回目」

 花道と一緒に昼食を取っていた洋平はそれを見て呆れたように呟く。

「ぬ?何がだ、洋平」

「欠伸だよ、欠伸。ここんとこ、ずっと欠伸しっぱなしじゃねーかお前」

「そーか?」

「そーなんだよ。ココに来てからだけでも10回。朝から数えたら一体何回になると思ってんだ」

「ふぬ…」

 洋平に言われて、花道は思い出してみる。確かに最近、普段以上に欠伸が多い…かもしれない。

 何でだ…と考えて、原因が「アレ」以降、良く眠れない日が多いからだと気付いた。

「ふぬっ…」

 その「アレ」を思い出し、花道の顔が真っ赤に染まった。

「うわっ、どーした花道。顔真っ赤だぞっ?」

 それに気付き驚いた洋平が花道の顔を覗き込む。花道は洋平の視線から逃れるように慌てて立ち上がると、背伸びをしながらまた一つ大きな欠伸をした。

「ふわぁぁ…」

 その態度に、言いたくないことなんだと悟ると洋平はあっさり引き下がった。

 こう言う状態の花道を突付いても無駄だと分かっているからだ。下手したら、花道得意の頭突きが飛んでくる可能性もある。威力のあるそれを受けたくない洋平は、「さて…」と立ち上がった。

「俺はそろそろ教室戻るけど…花道、お前どーする?」

「ぬ〜…。腹一杯食ったせーか眠いし…」

 ぶつぶつと呟きながら考えて。決めた、と花道は洋平に向き直った。

「5・6限サボって昼寝してくる」

「だな。そーしとけ。…で、どこで寝る気だ?見付かんねーとこなんてあったか?」

 最近、見回り厳しいからな…。と眉を顰めた洋平に対し。花道は不敵な笑みを浮かべた。

「ふっふっふっ…」

「…なんだよ、その笑い…」

「はっはっはっ、この天才・桜木にぬかりはなーいっ」

 偉そうに腰に手を当てて高らかに笑う花道に、洋平は苦笑しながら問い掛けた。

「なんだ、花道。どっかいい場所でも見つけたのか?」

「おう!」

 元気良く頷き、きょろきょろと辺りを見回し誰もいないのを確認すると、ほんの少しだけ声を小さくして花道が答えた。

「あのな、校舎裏の隅に体育倉庫あるだろ?普段は使わねーほうの…」

「ああ…あるな。あれだろ?体育大会の時しか使用しねーってトコだろ?」

「そう、そこだ。で、実はな。あそこの入り口の鍵、壊れてんだ。何回か使ったけど、暗いし静かだし寝るには最高だぜっ!」

 嬉々として話す花道に、良くそんなところ見つけ出すな…と呆れながらも感心していた。

「あっ!洋平、これ、内緒だからなっ!絶対誰にも言うなよ?」

 例え高宮達でも教えたらダメだからなっ!

 ずいっと顔を近づけて真剣に言われ、洋平は「はいはい、分かりました」と笑いながら頷いた。

「そこで寝るのはいいけど、入る時、見つかんねーようにしろよ?」

「おう、分かってるって」

「さて…じゃ、行くか」

 話が纏ったところで二人は歩き出し、屋上を後にした。

 バタン…。とドアが閉まった後、誰もいないはずの屋上でゆっくりと起き上がる人物の姿があった。

「…どあほう…」

 花道達とドアを挟んで反対側にいた流川である。

 花道達より先に屋上に来ていた流川はいつものように横になり、うとうとと眠りに落ちかけていた。そこにドアの開く音がして、誰か来たのが分かった。いつもならそのまま眠りに落ちるのだが、ここに来た相手が花道と分かると急に眠気が遠ざかり目が覚めてしまった。

 少しでも花道の声を聞いていたいと無意識に思ったのだろうか。横になってはいたものの、流川はずっと二人の会話を耳にしていた。

「…体育倉庫…とか言ってやがったな…」

 今そこに行けば花道は一人でいるはず。花道から聞きたい事がある流川は「丁度良い…」と立ち上がり、花道の後を追うことに決めた。








 花道が倉庫内に消えてから暫く経った頃、見つからないよう辺りに注意を払いながら、流川はそっと体育倉庫のドアを開け中に忍び込んだ。暫く入り口から動かず、暗闇に目が慣れてから流川は動いた。不用意に動いて物音を立て、花道に近付く前に気付かれては都合が悪いからだ。

「…どあほう…」

 先ほど話していた通り、花道は倉庫内にいた。一番奥にあるマットの上で横になり気持ち良さそうに寝息を立てている。流川は静かに近付くと花道の隣に腰を下ろした。ここまで近付けば、簡単には逃げられない。そう判断した流川は、遠慮なく花道を起こした。

「おい、どあほうっ」

「ん…」

「起きやがれっ」

 言いながら、花道の頬をペシペシと叩く。遠慮のないそれに、花道の意識が浮上し始めた。

「…んだよ…誰…」

 ゴシゴシと眠い目を擦り、文句を言いながら花道は目を覚ました。どことなくぼんやりした目で声のした方を見つめ、そこにいるのが流川であると確認した瞬間、花道は一気に覚醒した。

「げっ!!る、流川っ!!」

 慌てて起き上がり逃げようとするが、運悪く後ろは壁。しまったと言う表情を浮かべながら、花道はぷいっと流川から目を逸らした。

「テ、テメー、何でココにいるんだよっ」

「屋上で話してるの聞こえたから、後つけた」

「はぁっ?後つけたって…何でンな…」

「テメーが返事しねーからだ」

 花道の言葉を途中で遮り、流川は花道を見つめた。その真剣な眼差しに「アレ」を思い出した花道の顔が、かあっと赤くなった。



 

 思い返すこと一週間前。この日、偶然二人っきりになった部室で黙々と着替えていた時に、それは起こった。

「…好きだ、どあほう」

「…は?」

 突然の告白。

 花道は流川が何を言っているのか理解出来ず、マヌケな声を上げまじまじと流川を見つめてしまった。

「…好きだ、どあほう」

 それをどう捉えたのか。流川は再び同じ言葉を口にした。

「す、好きって…おい、何言って…」

 今まで数多く告白した事はあったけど、されるのは初めてで。しかも相手は流川。どうしていいか分からず困惑顔を浮かべる花道に、流川はずいっと近づくと花道を間近から見つめた。

「返事」

「あ?」

「…返事、寄越せ」

 俺はどあほうがすげー好きだ。テメーはどうなんだ?

 どアップで囁くうように問い掛けられ。

「だーっ!!ど、どけーっ!!」

 どんっ!と両手を突っ張り流川を突き放すと荷物を掴み、一目散にその場から逃げ出した。玄関まで走って、靴を履き替えてから更に走って。流川が追いかけて来ている訳でもないのに、家に帰り着くまでずっと走り続けた。

 ガチャガチャと焦ったようにドアを開け、部屋に飛び込むと、バタンと乱暴にドアを閉めた。はあはあと荒い息を吐きながら背をドアに預け、ずずっ…とその場に座り込み、花道は弱々しい声を上げた。

「…どーすりゃいーんだよ…」

 その顔は、可愛そうなくらい真っ赤に染まっていた。




 こうして、この日から花道の睡眠不足が始まり、また、流川を必要以上に避ける日々が始まったのだった。部活中も極力流川に近付かなければ、居残り練習もしない。目を合わせようともしないで、ひたすら流川を避けまくった。

 それが悪かったのか。

 誰もいない真っ暗な倉庫に二人っきりという、花道にとっては最悪の状態になってしまった。

「…聞いてんのか、どあほう」

 顔を真っ赤に染めたまま何も言わない花道に焦れたのか、流川が少し苛ついたように呟いた。

「き、聞いてるけどっ…」

「なら、いい加減返事寄越せ」

 焦れた流川にずいっと近寄られ、更に壁に追い詰められて。

 半ばパニックに陥った花道は、思ってもいないことを叫んでしまった。

「う、うるせーっ!『好きだ』なんて、テメー俺のことからかってんだろっ!返事なんか…」

 バンッ!!

「っ!?」

 出来るわけねー。そう言い掛けた花道の言葉を遮るように、流川が壁を叩きつけた。それに驚き、ビクッと身体を竦め、花道は流川を見つめた。

「流川…?」

「…からかってる…だと…?」

 すうっと流川の目が細められ、発する声も冷たく変わった。

「る、か…」

「ふざけんなっ!」

 強い口調で叫び、流川は花道を壁に押し付け、その勢いのまま荒々しく口付けた。

「んんっ…」

 花道は目を見開き、流川を押し退けようと試みる。だが、何をしても流川の唇は離れなかった。

「ん…ふぁ…」

 息苦しさから花道の抵抗が弱まった頃、漸く流川が唇を離す。

「…からかってるって思ってたんなら…そう思えなくしてやるよ」

 冷たい声で言うと、けほけほと咳き込みながら呼吸を繰り返す花道を乱暴にマットの上に押し倒し、流川は花道の服を剥ぎ取っていった。










【wisteria flowers】様の「裏」へ続く









【wisteria flowers】の藤崎章様から頂きました。
キリリク(1500)は「流花、体育倉庫で初H、18禁」(笑)
申し訳ありませんが、肝心の美味しい場面(笑)は
藤崎様のサイト(裏)でご覧になって下さいませ(笑)
当サイトのリンクから行けます♪


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