A Happy New Year & Happy Birthday!!






 12月31日。

 一年の最後を締め括るこの日、花道は朝から家中の大掃除に取り組んでいた。玄関、風呂場、お手洗い、そして台所。換気扇も部屋の電気も全て取り外し、綺麗に掃除していく。

 一年間お世話になった家なのだ。やはり年の最後の日ぐらいは綺麗にしておきたい。

 そう思い、一生懸命掃除している花道の背後に、ピッタリとくっついて離れない男の姿があった。玄関に移動すれば玄関に。風呂場に移動すれば風呂場に。部屋に移動すれば部屋に。花道の行く先々に無言で着いて回る。

 何度言っても離れない相手に半ばうんざりしながら、花道は今日だけで何度繰り返したか分からない言葉を口にした。

「…てめぇっ!いーかげんに離れやがれっ!!」

「…嫌だ」

 キッと睨まれながら言われたそれをサラリと受け流し、朝から花道の家に入り浸っている男――流川は更に花道にスリスリと擦り寄った。

「邪魔だっつってんだろーがっ!」

「…見てるだけだから邪魔じゃねーだろ」

「見られてるだけでも気ぃ散るんだよっ!」

「集中力がない証拠」

「何だとーっ!!」

 こうしてすぐに小競り合いが起こり、花道の立てた掃除予定はどんどんと狂っていくのであった。





「あー、まったく。てめーのせいで掃除終わんのすげー遅れちまったじゃねーかっ」

 漸く掃除が終了し、コタツに入って一息吐いた花道は流川をジロッと睨んだ。

「うるせー。終わったんだからいーじゃねーか」

「良くねーよっ!大体、何で朝っぱらから俺ンとこ来るんだよ。テメー、自分家の掃除は終わったんか?」

「掃除はオフクロと姉貴がやってる」

 当然のように答える流川に、花道は非難するように言った。

「テメー、女のヒトに掃除押し付けたのかっ?」

「…違う。俺が掃除したら余計に散らかるから触んなって言われた…」

 ふー、と溜息を吐きながら答える流川を、花道は呆れた目で見るしかなかった。

(掃除してるのに散らかるって、どーやったらンな事出来んだよ…)

 はあ、と溜息を吐いてチラリと時計に目をやった花道は慌てて立ち上がった。

「うわ、もうこんな時間。蕎麦作んねーとっ…」

 言いながらスタスタと台所へと向かった。ガサガサと用意をしていた花道だったが、その手を一旦止めると部屋を覗き込み、心なしか頬を赤く染めながら問い掛けた。

「おい流川…テ、テメーの分、作ってやってもいーけど…どうする?」

「食う」

 迷う事無く即答する流川に、「じゃあちょっと待ってろ」と言い台所に引っ込むと、花道は再び料理する手を動かし始めた。

 それを見ていた流川は、心密かに「新婚みてー…」と花道が聞いたら憤慨しそうな事を嬉しそうに思っているのであった。








 あっちこっちとチャンネルを替えながらテレビを見て、蕎麦を食べ終わったのは9時半過ぎだった。コタツの上を綺麗に片付けて、立ったついでに風呂場に行きお湯を張る。お湯が溜まる間テレビでも見ていようと部屋に戻りコタツに入ったところで、花道は隣に座ってぼんやりとテレビを見ている流川をチラリと見ながら問い掛けた。

「…なあ流川…テメー、帰んなくていーのかよ?」

「今日、テメーん家に泊まる」

(…やっぱり…)

 小さく溜息を吐いて。でも、誰かと一緒に年を越すのが久し振りの花道は、それがほんの少し…とても嬉しかったりする。

「なら、風呂入れ」

「…今日は文句言わねーの?」

 珍しく何も言わない花道に、流川は不思議そうに問い掛ける。

「言って欲しいのか?」

「いらねー」

「ならとっとと風呂入れ。そろそろお湯も溜まっただろーし」

 そう言って流川を風呂場に送り込むと、花道は二人分の布団を部屋に敷き始めた。





「どあほう…上がったぞ」

「ん。じゃ、俺も入ろっかな」

 コタツに入ってテレビを見ていた花道は、そう言うと立ち上がり風呂場へ向かって歩き出す。

「あ、流川。風邪引かねーようにあったかくしてろよ?俺ン家で風邪引いたなんて冗談じゃねーからな」

 途中クルリと振り返ってそれだけ言うと、風呂場へ向かい、服を脱ぎ捨てると花道も風呂へ入った。

「ふーっ…」

 今日一日の疲れを取るように、温かいお湯にゆっくりと浸かる。

「それにしても流川のヤツ…ほんとに帰らなくていーんかよ…」

 いとも当たり前の様に泊まっていくと言ったけれど。年末の、しかも大晦日の夜に泊まりなんて。流川の家族は何も言わないのだろうか?

「ふぬ…流川がいいって言うんなら別にいーけどよ…」

 これ以上考えると何だか気持ちが暗くなりそうで。花道は勢い良く立ち上がると身体を洗うために浴槽から出た。





 ガシガシと頭を拭きながら部屋へ戻って来た時、流川はコタツに入ってボーっとテレビを眺めていた。花道は台所へ行き、冷蔵庫から缶のお茶を二本取り出すとそれを手に部屋へと戻った。一本は自分の前に、もう一本は流川の前に置く。

「どあほう…」

「何だよ?」

 早速お茶に口を付けている花道に、流川が不満に告げる。

「…布団、二つもいらねー」

 ブホッ!!

「げほっ…て、てめっ…ンな事、真顔で言うなっ!」

 思わずお茶を吹き出し掛けた花道はゲホゲホと咳き込みながら流川を睨んだ。だが、流川は涼しい顔で続ける。

「どうせ、布団一つしか使わねーんだし…」

「何でだよっ!」

「今からセックスするから」

「誰がするかっ!!」

「今すぐヤりてー…」

「しねーっつってんだろっ!」

 あからさまな発言に真っ赤になりながら、花道は流川と口喧嘩を繰り広げるのであった。

 それから20分後。

「…何拗ねてんだよ流川」

「………」

 エッチをしないときっぱりはっきり言い切られ、不貞腐れた流川は花道に背を向ける形で早々に布団に潜り込んでいた。

「ったく…子供かテメーは」

「………」

 全く返事を返そうともしない流川に半ば呆れつつ、紅白を最後までしっかりと見た花道は新聞に目をやりチャンネルを替えた。

「やっぱカウントダウン見ねーとな」

「………」

 それでも全く反応のない流川を放っておき、花道はテレビを見たままカウントダウンが始まるのを待った。

『5秒前っ!4・3・2・1っ』

 そこで、花道はプツッとテレビを切った。そして流川の方を向く。

「流川っ!あけまして……………………た、誕生日っ…おめでとうっ!」

「っ!?」

 それを聞いた途端、流川はガバッと布団を跳ね除け勢い良く起き上がる。見開かれた目に映ったのは、顔を真っ赤に染めた花道の姿。

「どあほう…」

「ふぬっ…た、誕生日プレゼント、やるっ…」

 そう言って。花道は流川の目の前まで来るとガシッと流川の肩を掴み、真っ赤な顔のまま、そっと触れるだけのキスを流川の唇に落とした。

「っっ!!?」

 初めてと言っていい花道からのキスに、流川はカチンと固まってしまった。それをどう取ったのか、花道は下を向いてボソボソと小さく告げる。

「お、俺が誕生日プレゼントって言うのが気に入らねーなら、べ、別にっ…」

「どあほうっ!!」

「うわっ!」

 そこまで聞いて、流川は勢い良く花道を抱き締めた。

「すげー嬉しーっ…」

「ふぬっ…」

「サイコ―のプレゼントだ、どあほう」

「あ、あんまりヒデー事すんなよっ…」

 やっぱり真っ赤な顔のままそう言って。花道は流川の背に腕を回した。

「…努力する」

 少し微笑んでそう答えて。流川は花道を布団の上に押し倒した。









「…どあほう…」

「…ん…何…」

 二人分の汗と精液でドロドロに汚れてしまった布団から綺麗な方の布団に移り、抱き合ったまま眠りに落ちようとしていた花道に、流川が小さく声を掛けた。

「何で、俺がヤリてーつった時にヤらせてくれなかったんだ?」

「ふぬ…」

 ほんの30分ぐらいの違いなのに何でだ、と問い掛ける流川に。花道はぷいっと流川から視線を外して答えた。

「…ヤ、ヤってる最中だと、0時丁度に『おめでとう』って言えねーと思ったからだよっ…」

「っ…どあほうっ…」

 その答えが嬉しくて、流川は花道をギュッと抱き締めた。そして、今の発言&花道の可愛らしい表情で元気になった息子を押し付ける。

「なっ…テメっ…」

「どあほう…もー一回…」

「ふ、ふぬっ……あ、後一回っ…だけだからなっ!」

 今日は誕生日だから特別だっ!

 また真っ赤になってそう言う花道に優しくキスをして。

 流川は花道を再び快楽の波へと浚っていくのであった。
















【wisteria flowers】の藤崎章様から頂きました。
流川の誕生日記念のSSで、ダウンロードフリーでした。太っ腹!
なんだかんだ言っても流川に甘い花道が可愛いです。流川が羨ましい(笑)



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