チョコとサンタと甘いキス
12月24日、クリスマスイブ。
この日ばかりは花道も流川も早々に居残り練習を切り上げ、仲良く花道のアパートへの帰路に着いていた。
帰り道すがら、商店街で色々買い物をした二人の手にはそれぞれ荷物があった。流川の手には食材がたっぷり入ったお店の袋。そして花道の手には大きなケーキの箱。
商店街を抜けて暫く歩いた所で花道が先ほど買ったばかりの物を順々に思い出していく。
「魚も買ったし…肉も買った。野菜も買ったし…ケーキもばっちりだし。うっし、買い忘れはねー。流川、早く帰ってケーキ食おうぜっ!」
「…ケーキの前にメシだろ、どあほう」
嬉しそうにケーキの箱を見つめて言う花道に呆れながら流川が突っ込みを入れた。
「夕食前にケーキなんて冗談じゃねー」
「ふぬっ…言ってみただけだろっ!」
冗談も通じねーキツネめっ。
などとぶつぶつ言いながら歩く花道に、「半分以上本気だったくせに…」と流川が小声で返す。
「何だとーっ!」
「るせー、どあほう。近所迷惑」
「喧嘩売ったのはテメーだろっ!」
「売ってねー。どあほうが勝手にそう思っただけ」
「ふぬーっ!」
そんな二人の喧嘩を家の中で聞いている近所の住人達は、「二人とも相変わらず元気ねぇ」と呑気に笑っているのだった。
喧嘩しつつ帰り着いた花道のアパートで、ささやかながら二人だけのクリスマスパーティが開かれた。料理はもちろん全てが花道作である。
育ち盛りの高校生、しかも運動後の食欲は半端じゃなく、二人はあっと言う間にその料理を平らげた。
「ぷっはー。食った食った!ごちそうさまでしたっ!」
「…ゴチソーサマでした」
「さってと。流川、ケーキ食おうぜ、ケーキっ!」
「………」
正に今、食事を終えたばかりでのこの発言に、流川は呆れたように花道を見た。
「…今メシ食い終わったばっかだろーが」
「うるせー。デザートは別腹なんだよっ!」
テメーはどこのお子様だ。
喉まで出掛かった言葉を飲み込み、流川は仕方がないと諦めの溜め息を吐いた。
「そんなにたくさんはいらねーからな」
「おうっ!」
流川の了承を得て、花道は嬉々としながら台所へ行った。
冷蔵庫からケーキの箱を取り出し、箱を開けて中身を慎重に取り出してテーブルの上に置く。そして包丁を手に持ち切ろうとしたところで手を止めて暫く考え、それから包丁を持ったまま部屋へと戻った。
「なー流川。テメーどっちがいい?」
「あ?どっちって…何が?」
突然問い掛けられて、何の事か分からない流川が逆に花道に問い掛ける。
「ふぬ…キツネには通じなかったか…」
小さい声で呟いて、花道は問い掛け直した。
「ケーキに乗ってるチョコレートプレートと、砂糖菓子のサンタ。どっちがいいんだ?」
「チョコとサンタ?」
「おー。どっちがいー?」
何時もなら率先してどっちかを選ぶのに、どうしてだろうと疑問に思った流川は自然と口を開いていた。
「テメーは?どっちがいいんだ?」
その問いに、花道はほんの少し言いにくそうに切り出す。
「俺は、その…どっちか決めらんねーから聞いたんだよっ」
「あ?」
何で決められないんだと訝しむ流川の前で、花道はぶちぶちと続けた。
「だってよー。チョコも美味そーだし、サンタも美味そーだろ?んでも両方取るわけにいかねーしよ。チョコもサンタも二個ずつ乗ってりゃ悩まねーで済むのにな」
その何とも子供らしい悩みに、思わず流川の顔が緩んだ。
「俺はいい」
「いいって、何が?」
「チョコもサンタもいらねー。両方やる」
流川の言葉を聞いた途端、花道の顔がぱあっと輝いた。
「ホントかっ!?」
「ああ」
「後で寄越せっつってもやらねーぞっ?」
「いーから食え」
苦笑しながら答える流川に、花道は満面の笑みを浮かべた。
「サンキュー流川っ!大好きだぜっ!!」
そして流川の頬にチュッとキスを落とすと嬉しそうに台所に戻って行った。そんな花道の後ろ姿を見ながら、流川は片手で顔を覆った。その顔は珍しく真っ赤に染まっている。
「…いきなりは反則だろ…」
それでも好きと言ってキスをしてくれた事が嬉しくて、流川は手の下で優しい笑みを浮かべた。
チョコレートプレートに、砂糖菓子のサンタクロース。
来年も、再来年も、その後も。毎年譲り続けるから、ずっと今日みたいな笑顔を見せてくれ…と呟いて。
幸せな気分のまま立ち上がると、花道の手伝いをするために流川は台所へと足を向けたのだった。
【wisteria flowers】の藤崎章様から頂きました。
クリスマスのSSなのですが、私の妄想を形にして下さった
藤崎さんにメロメロ感謝です(笑)
妄想とは「花道にチョコレートプレートと砂糖菓子のサンタさんをあげる!
きっと喜んでくれる筈!」という、大変頭の悪いものでした(汗)
それにしても「デザートは別腹」と言い切る花道がツボで仕方ありません(笑)
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