【彼は恋するダメオトコ】  (2)






「……気持ち良かった?」

「…ん」

 素直に頷いた花道の頬に口付けると、気だるそうに花道の腕が

流川の首に巻きついてきた。

 お互いの汗が残るほてった体が密着した。

「どあほう?」

「流川…流川………」

 巻きつけた腕に力が篭る。

「……」

 よしよしとあやすように汗で濡れた花道の髪をすいてやる。

「………くな…」

「何?」

「どこにも行くな…」

 肩に顔を埋めているので表情を見ることが出来ないが、花道が真剣なのは伝わった。

「どこにも行かねぇよ…。おめーを置いてどこに行くって言うんだ?」

 流川は一瞬不思議そうな顔をしたが、直ぐに安心させるように囁いた。

「……そっか…」

「そうだ」

「……流川は俺の…だかんな」

「!」

 今、物凄く貴重な告白を聞いた気がする。

「さく…」

「誰にもやんねー…」

「……」

 流川は感動していた。しがみ付いてきて更にこんな言葉が聞けるなんて…!

「当りめーだ。俺はお前のもんで、お前は俺のもんなんだ」

「………うん」

「…分かった?」

「分かった…」

 花道の髪をもう一度ゆっくり梳くと、お返しに花道の濡れた唇が流川の耳たぶを

甘噛みした。

 その刺激にムクムクと流川自身が反応する。

 流川は花道のふっくらした頬に小さく口付けた。

「どあほう…」

 もう一回する。

 そう言うと、花道は恥ずかしそうにコクリと頷いた。

 結局若い二人が眠りについたのは明け方近くだった。








「あ〜あ…。二人共ツヤツヤした顔しちゃって…」

 やってらんねーよ…。

 水戸洋平は体育館で行われているバスケ部の練習を見学しながら、

こっそり溜息をついた。

 コートでは流川と花道が元気に走り回っている。

 数日前のことを思い返すと、流石の洋平も溜息をつきたくなると言うものだ。





 ……その日は大変よく晴れていた。

 洋平は流川に1時間目終了後、屋上に呼び出された。

「………」

「旦那…早くしてくんない?休み時間終わっちゃうんですけど」

 なかなか口を開かない相手に先を促す。

「……どあほうが…」

「………」

(やっぱりね)

 流川が自分を呼び出すなんて花道絡みしか無い。

「どあほうって誰のこと?」

 とぼけて耳の穴を小指で穿る仕草をしてみせた洋平をキッと睨みつけ

「あの赤頭しかいねーだろ」とボソボソ答える。

「ハイハイ。んでその赤頭がどうしたのよ」

 早くして頂戴。

 洋平は少し意地悪そうに話しを促した。

「どあほうが甘えてくんねー」

「は?」

「なんか……いつも上手くいかねー。なんで甘えてくんねーんだ」

 真面目な顔して何を言い出すのかと思えば…。

「そんなの知るかよ。俺にどうしろと…」

「なんとかしろ」

「なんとかって……」

 この駄目男が相手じゃ流石の花道も苦労するわな…と、呆れ気味で他所を

向いた洋平に、流川は更にズイッと近寄り目で訴えてきた。

(あ〜ぁ…)

 思い切り疲れた溜息を零しつつ、洋平は天を仰いだ。

(俺ってたいがいお人好し…)

 何だかんだ言って流川に協力する自分にも呆れつつ、実は心の片隅では

二人の関係を面白がっている自分も自覚していた。

(たまには花道を煽ってみるのも一興か……)

 すまん、親友よ!

 心の中で詫びを入れつつ、結局洋平はその日花道をつついてみた。

 曰く『いつもいつもアレを嫌がってると、いくら流川でもそのうちお前に

愛想つかすかもよ?』と。

 更に『他のヤツに盗られたらどうする?』とも付け加えておいた。

 言った後、花道はかなりショックを受けていたようだったが、この様子を見る限り

丸く納まったらしい。

「俺は別に、仲がこじれても一向に構わないんだけど…」

 毎日イチャイチャを見せ付けられて、こっちの方が参る。

「あ〜ぁ、俺も彼女欲しいなぁ…」

 どこかに良い子はいないかね。

 苦笑しながら体育館を後にした洋平は、ゆっくりとした足取りでバイトへ向かった。

 



 そして去っていくその後ろ姿を、流川は体育館からしっかり見ていた。

(サンキュー水戸…)

 と彼が心の中で感謝したかどうか、それは当人にしか分からない………。



















キリバン1710を申告して下さった【Helipterum】の玲様から
頂いたリクエストでした。
内容は「珍しく甘える花道に張り切ってサービスしまくる流川、18禁モノ」
ということだったのですが、18禁になってるのか今でも不安です(笑)
「花道が珍しく甘える理由」を色々考えたことを覚えています(笑)


(2003年7月17日初出)





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