【お医者様でも草津の湯でも…?】 (2)
翌日。
「あ!仙道!」
「ん?」
廊下を歩いていたら、知っている声に呼び止められた。
振り向くと、パジャマ姿の花道がバタバタと駆け寄ってきた。
「こら!走るな!」
「あ!」
仙道に注意された花道は、急ブレーキをかけて、今度は早歩きで近づいた。
手を見ると何か書類を持っていた。
「歯科に行ってたの?」
「おう!虫歯ギュイーンってやってきた!」
お菓子が好きな花道は、歯磨きをしているのに虫歯があった。
現在入院はしているが、体調も良いのでついでに治してしまおうと主治医に言われたらしい。
「1人で行ったの?」
すると花道はコクンと頷いた。
「偉いなぁ!」
「こんくらい平気だ!」
胸を張って答える花道に、仙道は思わず笑みを零した。
「仙道は?どこに行くんだ?」
「俺?俺は休憩だよ」
医局に戻ろうと思っていたところを呼び止められたのだ。
そう言うと花道の顔がパーッと明るくなった。
「んじゃ、んじゃ…暇?」
「あぁうん。暇だけど…何かあるの?」
「えぇと……」
辺りを見回した花道は、廊下の角に設けられた喫煙コーナーを見つけた。
「仙道!こっちこっち!」
「何、どうしたの」
グイグイと花道に引っ張られ、喫煙コーナーのベンチに座らされた。
先客は誰もいない。
ある程度の広さを設けられたそこは、大きな観葉植物で周りを囲まれていた。
(こんなところに連れ込んで……一体何を企んでるんだか)
花道の行動に疑問を抱いたが、どうせ一時間は休憩時間なのだ。
ここに座って花道とお喋りするのも良いだろう。
(花道を独り占め〜♪なんてね)
心の中ではウキウキだ。
「仙道?」
そんな仙道の顔を不思議そうに覗き込む花道。
「なんでも無いよ」
にっこり笑って適当に誤魔化す。
「で?どうした?」
仙道が話を促すと、花道はきょとんとした。
「どうしたって?」
「え?だって話があるんじゃないの?ベンチに座って」
「ないよ」
「へ?」
話が無いと言われて驚いた呆気に取られた。
「話っていうか……」
花道は考えながら言った。
「昨日は途中で帰っちゃったじゃん。だからさ……」
そう言いながら仙道の隣に座った花道は、突然ベンチに寝転がった。
そして頭を仙道の膝に置く。
「花道?!」
驚いた声を出す仙道の膝にぎゅっとしがみ付いた。
「仙道がやだって言うまでこのままでいる」
「…………」
目を閉じてしまった花道に、仙道は小さく笑って花道の髪を梳いた。
小学2年生にしては小さい花道。
でも足が大きいから、将来はきっとデカくなるだろう。
(今の花道も可愛いけど、大きくなってもきっとやっぱり可愛いんだろうなぁ…)
また危険な想像をこっそり巡らせつつも、仙道は股間の近くにある花道の頭を極力意識しないように努めた。
花道はもうすぐ退院する。
肺炎で入院していたのだが、すっかり良くなった為だ。
出来るなら毎日会える今の状況を変えたく無いけれど、元気に外を走り回る花道の方がもっと魅力的だろう。
(たまに、遊びにきてくれるかなぁ……)
淡い期待を胸に、仙道はサラサラと柔らかく甘い花道の髪を梳き続けた。
―――結局仙道は休憩時間が終わるまで膝枕を続けたおかげで、休憩する前よりも疲労度が増していたのは言うまでも無い……。
そしてさらに言えば。
この2人が、その後恋人になるのかどうか。
それはまた別のお話である――――。
キリバン12345を申告して下さった【とぷぶり】の茶夢さまから
頂いたリクエストでした。
「小児科医の仙道と、小学生花道の、H有りそうで結局全然無いお話」という
ことだったのですが、仙道さんをもっとお医者さんらしくカッコよく!と
思ってもいつも通りヘタれました(汗)花道は必要以上に幼いし(笑)
実際にこんな医者がいたら大問題だ(笑)
(2004年4月23日初出)
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