【Don’t Disturb!!】 (2)
フジマ・サイバープロダクツ。通称F・S・P。
近年、ITの発達と共に目覚しく成長を遂げたこの会社は、一人の青年実業家によって起された。
代表取締役の名は藤真健司。
若干二十歳で起業。
その後たった二年で東証一部上場を果たす。
女性にターゲットを絞った経営に加え、次から次へと新企画を提案し、たちまち彼は【IT界の寵児】と呼ばれるようになった。
一人の若造に過ぎない彼に、周りの同業者達は遅れをとらぬよう後から着いて行くのが精一杯だった。
中には影で彼をやっかみ、恐れて【モンスター】と呼ぶ者もいた。
先日は、有名な経済雑誌の記事で『今後の活躍が最も期待される経営者十人』の中に選ばれたばかりだった。
そんな彼は、現在間違い無くIT業界では日本を代表する人物なのだ。
「はぁ………」
広い、清潔感溢れる社長室に大きな溜息が零れた。
大張りの窓を背に、マホガニーの特注デスクと革張りのチェアー(通称「社長椅子」)が鎮座している。
その大きな椅子に体ごとをゆっくりと預け、藤真は眼鏡を外した。
「……………」
デスクの上ではノートパソコンが絶え間なく数字の羅列を表示していく。
藤真はそっと目頭を押さえた。
長時間ディスプレイを見ていた所為だろうか、やけに重く感じる。
仕事の間だけ使用する眼鏡を、ノートパソコンの隣へ置いた。
(少し根詰めすぎたな………)
あまりやり過ぎると逆に集中力が無くなりミスに繋がる。
それだけは許されない。
(休憩にするか……)
藤真は電話に片手を伸ばし、内線に繋いだ。
「休憩にする。コーヒーを頼むよ。……うん、そう……」
秘書に伝え、そのまま通話を切る。
「ふぅ……」
また椅子に体を預け、ゆっくりと目を閉じた。
気を抜くと眠りに引き込まれそうだ。
やはり少々疲れているらしい。
何か甘いものを頼もうかと思ったが、彼の優秀な秘書はこちらから言うまでも無く用意してくれるだろう。
―――コンコン
「どうぞ」
「失礼致します」
低い声の後に社長室の扉が開いた。
中に入ってきたのは背の高い青年だ。
驚くほど目を引くのはその体躯と容姿。
そして真っ赤な髪だった。
「お疲れさまです。濃い目のコーヒーをお持ちしました。それからクラシックショコラをご用意致しました」
そう言って、赤い髪の秘書はデスクに近寄った。
「ありがとう。そっちのテーブルに置いてくれ」
「はい」
秘書は頷き、社長室中央に備えてある応接用テーブルへ置いた。
グレーのスーツに包まれた青年の大きな体がしなやかに動く。
背が高く、姿勢も良いのでその動きはとても洗練された企業人そのままだ。
お茶のセッティングが済み、秘書の青年が立ち上がった。
そして一歩下がりお辞儀をすると、退室しようと向きを変えた。
「待ってくれ」
「…………」
椅子から応接用ソファへ移動した藤真が、秘書の腕を掴んだ。
「俺が良いと言うまで、戻らなくて良いよ」
「……社長…」
「社長はいらない」
「…………藤真」
秘書が名を呼ぶと、藤真は嬉しそうに笑った。
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