【Don’t Disturb!!】 (4)
「桜木。まだ落ち込んでるのか?」
「…………」
しょんぼりしている花道の隣へ藤真が腰掛けた。
ここはホテルの一室。更に言うとベッドの上だ。
先に入浴を済ませた花道は、ベッドの上で膝を抱えていた。
シャワーを浴びたばかりの藤真は、白いバスローブ姿で髪を拭きながら彼に近寄った。
落ち込んでいる花道の手を取る。
入浴したばかりの指先から石鹸の香りがしていた。
「いつまでも落ち込んでるなんて、らしく無いな。それくらいで塞ぎこまれては困るよ」
「………」
「向こうも笑ってただろう?大丈夫、契約には何の問題も無い」
「ごめん……」
藤真が慰めるように花道の指先に軽く口付ける。
………一体何があったのか。
それは先程まで行われていた夕食会での出来事だった。
相手側から夕食会へ一人追加したいという連絡が入っていたにも関わらず、その張本人が遅刻してきたのだ。
向こうも、なかなか揃わないメンバーに気を揉んでいた。
張本人と連絡も取れず、遅刻するという連絡も寄越さない人物に対して、その場に集まった者達が怒りを隠せなくなってきたその時。
『どあほう?』
一人の男が花道に話し掛けた。
流川楓というその男は、その場の全員が首を長くして登場を待っていた人物であり、花道の高校の同級生だった。
そう。あくまでも――同級生――なのだ。
『なんでてめーがこんなところに?』
『そ!それはこっちの台詞だ!』
思いがけない人物に思いがけない場所で再会した二人は、お互いにその場のことをすっかり忘れてしまった。
そのまま懐かしい思い出話に花が咲けば良かったのだが、いかんせんこの二人はそんな思い出を語り合うような仲では無かったのだ。
………思い切り乱闘になった(汗)
「穴があったら入りてぇ……」
思い出しても顔から火が出そうだ。いや、逆に青ざめそうだ。
大切な夕食会での乱闘騒ぎ。
社長秘書という猫を被っている筈が、不意打ちで昔の知り合いに会った所為で思い切り仮面が剥がれてしまった。
最悪だ。
その場は、取引相手の方も社員が遅刻してきたことで申し訳なく思っていたようで、なんとか二人をなだめて乱闘騒ぎを治めてくれた。
先方の社長も、笑って「お互い気心の知れたメンバーがいるのなら、この契約は益々順調に進められそうだね」などとフォローしてくれた。
社会人とは思えない程情けない出来事だった。
「…………」
「藤真?」
落ち込んで俯いている花道の顎を、藤真は強く掴んでグイッと自分の方へ向かせた。
「本当に……ただの同級生?」
「は?」
「あの…流川クン」
「おう…そうだけど。別に仲良かった訳じゃねーし」
「…………」
花道の目は嘘をついていない。藤真はこっそり溜息をついた。
(もし嘘だったら……お仕置きだったけどね)
どうもあの男から同類の匂いを感じたのだ。
花道への視線が気になった。
夕食会の後、流川が花道へ話し掛けたそうな気配がしたので、藤真は流川の行く手をさり気無く遮り、素早くその場を辞したのだ。
幸い花道自身は何も気付かなかったようだが。
(まぁ…誰が出てこようと、渡さないけど…ね)
藤真は自分が欲張りだと自覚している。
欲しいものは何が何でも手に入れる。そして決して手放さない。
目の前にいる花道も、欲してやっと手に入れた大切な宝だ。
今更誰にも渡すつもりは……無い。
藤真は小さく笑みを浮かべて、きょとんとしている花道へ口付けた。
「今夜は眠らせないからな?」
覚悟しろ。
花道の顎を捉えたまま、美しい笑みを浮かべて藤真は花道の唇に噛み付いた。
END
楽しんで頂けたでしょうか?それが一番心配(汗)
書いた本人はそれこそノリノリで楽しかったです(笑)
正真正銘これが最初で最後の藤花になるかと思います。
以前もそうですが、やはり藤花は結構貴重みたいなので、
少しはこの話も藤花ファンの方々の萌えの足しにでもなれば
うれしいです(笑)うちは流花&仙花サイトなのは間違い無い
んですが、これはこれで良い経験になりました(笑)
これって書こうと思えばいくらでもネタとしては書けそうです。
藤真と花道の出会いとかこの後の展開とか。でもその辺は
読んで下さった方の妄想に委ねたいと思います(笑)
(2004年春初出)
≪≪ novel-top