【VeryMerryChristmas】  (1)






 綺麗な女性がタバコに火をつけて美味しそうに吸っている。

 片手はコーヒーのカップを弄んでいた。ゴールドのマニキュアが美しい指先を

彩る。

「それで花道。どうすんの?」

「何が」

「何がってクリスマスに決まってんでしょ」

 花道は目の前にあるピザを頬張っていた。モグモグと口を動かして答えようと

するが、食べるのに忙しくて答えられない。

「喋るのは食べてからにしなさいよ」

 口に頬張ったままで喋ろうとする花道を牽制しつつ、向かいに座る美女は灰皿

に灰を落とす。

「ウチで過ごすのか、向こうで過ごすのか聞いておかなきゃね。こっちにも準備

があるし」

 ピザをごくんと飲み込んだ花道はコーラを飲んで一息ついた。

「ふー。今年はそっちには行かねー。仙道とちゃんと相談したし」

「そうなの。それじゃあんた達の分はいらないわね。それからバイトはどうすん

の?」

「あー、それも今年はいらねー」

「どうして?お金無いでしょ、あんた。今年はプレゼント贈らないつもりなの?」

「ふっふっふ…」

「何よ、その笑いは…。まさかあんた…」

「…何だよ」

「旦那さまのお金で買うつもりじゃないでしょうね!!」

「ンな訳あるかよ!もうちゃんと用意してあんの!」

「もう??なんでそんなに早いのよ。お金無いのに…」

「金が無いって連呼すんなよ!確かにねーけどよー」

 不貞腐れた花道に構わず、彼女は続ける。

「どういうことなのよ」

 不審気に詰め寄る彼女に大きめの茶封筒を手渡す。どこにでも売っている事

務用の封筒だ。

「何これ」

「良いから見てみろよ」

 言われて彼女は中から書類を取り出した。

 掛けていた眼鏡の端を持ち、しげしげとその文面を見つめた後、先程と同じ言

葉を呟いた。

「………何これ」

 その時初めて彼女−花道の母親−は眼鏡を外して、花道の得意げな瞳を見

つめたのだ。








  ***








「花道ー、味見してー」

 そう言うと仙道は小さな器にビーフシチューのスープとジャガイモを乗せた。

「どお?」

 アツアツのジャガイモを頬張った花道は目を輝かせて親指を立てた拳を作っ

て見せる。

「ウマイ!」

「ホント?!良かった!」

 仙道はそう言って嬉しそうに笑った。

 ガスの火を弱めつつ今度は花道に出来具合を聞く。

「こっちもバッチリ!流石天才!」

 えっへん!とばかりに大きな皿に乗ったポテトサラダやオードブルを自慢する。

「おお!いい感じじゃん、ちょっと味見を…」

「コラ!」

 唐揚げを摘もうとしていた手の甲をピシャリと叩かれた。

「痛いよ、花道〜」

 ぐすんと泣くふりを見せる仙道を呆れた目で見ると、花道は今用意していたサラ

ダとオードブルをリビングへ持っていく。

「ほら仙道!もう向こう持っていくぞ!」

「はいはい」

 ビーフシチューを盛り付けて、フランスパンをたっぷり用意する。そして良く冷え

たシャンメリーも3本。

 大きなコタツの上はあっという間に綺麗に盛られた食事達で埋め尽くされる。

 コタツに座り、仙道がシャンメリーを開けた。プラスチックコルクを抜くシュポンッ

という軽快な音の後、グラスに金色の液体が注がれてく。

 そして各自グラスを持ってそれを軽く持ち上げる。

 それを触れ合わせながら2人声を合わせて言った。

「メリークリスマス!!!」













novel-top ≫≫