【VeryMerryChristmas】  (2)







 美味しい食事のおかげなのか、いつもより更に弾んだ会話を交わしていたら、

あっと言う間に皿の上が空になった。

 テーブルの上にあった大量の食事があらかた消えたのを見て、ケーキの用意を

するからと仙道が席を立った。

 その間、花道はコーヒーの支度をする。

「花道、サンタさん食べる?」

 ケーキの上に乗っているサンタのお菓子を見て仙道が言った。

「食う!俺の皿に乗せといて!」

「オッケー」

 ニコニコしながら仙道は2人分のケーキ皿をコタツに持っていく。

 そして別室のクローゼットから箱を抱えてきた。

 まだキッチンにいる花道には見えないように、傍らに隠すようにそれを置いた。

(早く渡したいなぁ…どんな顔するだろ…)

 想像するだけでにやけてくる。

 だらしない顔をしていると花道がマグカップを2つ持ってきた。

「ちょっと待ってろ」

 そういってまた席を外し、戻ってきた時には手に茶色の大ぶりな事務用封筒を

持っていた。先日ファミレスで母親に見せた例の封筒である。

 座った途端花道が大声で言った。

「仙道!俺からのクリスマスプレゼントだ!見ろ!!!」

 そう言って花道は仙道の目前へその茶封筒を突きつけた。

「何々?何なの一体…」

 驚きつつもそれを受け取り中身を確認した。書類を見て仙道は目を見開いた。

「え…沖縄?」

「そうだ!」

 花道は得意げに胸を逸らした。

「どうしたの、これ…」

「福引で当選した!一等賞だ!」

「えぇぇぇぇええ!!!」

 仙道はビックリして思わず大声を出してしまった。

 花道の顔と沖縄旅行の招待状を交互に見る。

「え…これ、行けるの?俺達……」

「おう!ペアで2泊3日!沖縄だ!すげーだろ!」

「…凄すぎるよ…ウソみたい…」

「ホントはよう、トイレットペーパーとか洗剤が欲しかったんだけどよー」

 そう言いながら花道は福引当日の様子を思い出した。

 その時は、行き着けのスーパーが丁度大売出しの期間中だった。

 福引補助券が貯まったので一度だけ抽選出来ることになり、抽選の列に並んで

いたのだ。

 ハズレでも参加賞で洗剤やティッシュが貰える。

 外で抽選していて寒いので、早く終わらせて帰ろうと思っていたら、前の人が

当りを出した。

 お店の人が鐘をガランガラン鳴らして当選をアピールしていた。どうやら4等の

コーヒーメーカーを貰ったようだった。

 いよいよ花道の番だ。

(トイレットペーパー出ろ!!!!)

 むむむ〜!!と念を送る花道は、勢い良く抽選箱を回した。

 ポロッと出てきた丸い玉の色は………金だった。

「凄いな…流石花道…天才だよ」

 仙道は心底感心したように呟いた。

「最初何が当ったのか分からなくてよー、店の親父に聞いちまったよ」

 トイレットペーパーくれんのか?って。

 そう言いながら花道は照れたように笑う。

 呆然と花道の顔を見ていた仙道は、ゆっくりとまた招待状を見た。

「仙道?」

 不思議そうに花道が仙道の顔を覗き込んできた。

「2人で旅行出来るんだ…。久しぶりだね…」

 静かな声で言う様子に、花道も同意する。

「あれ以来、どこにも行けなかったもんなぁ…」

「ごめんな」

「何で仙道が謝るんだよ!」

 花道が少しむっとして声を荒げた。そんな相手を仙道はゆっくりと見た。

「連れて行きたかったけど、やっぱり…ね…どうしても無理だったから…悪いなと

思って」

「そんなん、仙道の所為じゃねーだろ!なんでそんなっ…!」

 赤い顔をして言う花道に、仙道はふっと笑みを浮かべて見返した。

「先生と生徒の組み合わせで遊びになんて行けないからな。どこで誰が見てる

か分からないし」

「そりゃ……そう…だけど……」

 言葉尻が萎んでいく花道に笑いかけながら、仙道は楽しそうに言う。

「きっと神様がチャンスをくれたんだよ、俺達に。2人で遊びに行けって」

「…かなぁ……」

「そうだよ」

「……だよな!」

「絶対ね」

 仙道がにこっと笑った。花道もつられたように一緒に笑う。

「楽しみだね」

「おぅ!」

 そう。

 仙道彰と桜木花道の間には、誰にも言えない秘密があった。

 実はこの2人は結婚しているのである。

 仙道は高校教師で、花道はその教え子。つまりは禁断の仲と言う訳だ。

 今日は結婚して初めて迎えるクリスマスだったので、お互いいつもより数倍

ウキウキしているのだ。

「花道、とっても嬉しいよ。ありがとう」

「おぅ!」

 花道はへへっと照れながら頭をかいた。

「俺もプレゼント用意してるんだけど、花道のと比べたら大したこと無いなぁ…」

「そんなことねーぞ!だって俺のはタダなん……だ…し……」

「タダだけど、凄く貴重だよ。だって花道と一緒に過ごせる権利を貰えたような

もんだし」

 真面目に恥ずかしいことをさらっという我が夫(…)を真っ赤な顔で見上げると、

目尻をだらしなく下げた幸せそうな顔がそこにあった。

(まったく…)

 そんなデレデレした情けない顔をしないで欲しい。顔の作りが良いだけに、妙な

迫力を感じてしまうから。

 そのことを分かっているのかいないのか、仙道は用意してあったプレゼントをコ

タツテーブルの上へ置いた。















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