【VeryMerryChristmas】 (3)
「はい。これは俺から。メリークリスマス!」
プレゼントは20センチ四方の結構大きなものだった。
「開けてみて」
花道はそう促されて綺麗に包装してあるそれを案外几帳面に開いていく。
「え、地球儀…?」
ラッピングされた箱の中から出てきたものは直径20センチ位の地球儀だった。
「これでしっかり勉強してくれると嬉しいなぁと思って」
にっこりと笑みを浮かべながら仙道が言った。
「あ…う…」
「勉強して、素敵で優秀な奥さんになって貰おうと思ってね。あ!勿論今でも
充分素敵だよ。でも花道はもっと素敵な奥さんになれると思うんだ♪」
「………」
無邪気にそういう相手を誰が憎めようか。
途方にくれて地球儀を見つめている花道を暫らく眺めていた仙道が、ぷっと吹き
出した。
「冗談だよ、花道。ウソウソ。そんなにしょげないで」
「だってこれ…」
唇を突き出し眉を八の字にして心底困った顔をしている花道に笑いかけながら
「ここを触ってみて」と促す。
地球儀を支えている1番下、丁度お椀を伏せた状態になっている部分に
丸い突起が付いている。
花道はそこに人差し指で軽く触れた。
特に何も起こらない。
「仙道?何も起きないぞ」
「まぁまぁ。ちょっと待っててね」
そう言うと立ち上がり部屋の灯りを消した。すると部屋全体になぜか青白い光が
反射している。
「うわ…すげ…」
部屋を見回すと暗い部屋の壁に青白い光の星座がいくつも浮かび上がってい
た。
ゆっくりと回転するそれは、プラネタリウムを自分の部屋で体験している気分に
なれる。
「今度はこれで星座の勉強してね…なんて言わないよ」
仙道が面白そうに言いながらコタツに戻ってきた。
ぴくっと一瞬体が動いたけれど、安心したのか花道は部屋を見回した。
「どうなってんだこれ…すげーよ…」
「地球儀に仕掛けがしてあるみたいだよ。ほら…」
そう言いながら丸い地球儀に手のひらをかざす。すると影絵のように仙道の手が
星座の中に大きく伸びた。
「へぇ…」
感心して花道は何度も頷いた。
「花道、ちょっと横になってみなよ」
仰向けに寝転んだ仙道は頭の下で腕を組んだ。
「こうすると、もっと凄いよ」
仙道の隣に同じように仰向けになった花道は部屋に広がる星空に驚いた。
「キレイだなぁ…」
「気に入った?」
「うん」
「そうか、良かった」
仙道はそう言うと、少し花道に近づいた。
「売り場に展示してあって、見た瞬間に買いだ!って思ったんだ。ほとんど一目惚
れ。でも花道が気に入ってくれてホント良かった。俺があんなに凄いもの貰っ
ちゃ、敵わないもん」
「だからあれは…」
そんなに凄いものじゃ無いんだ。
そう言おうとしたけれど、最後まで言えなかった。
衣擦れの音がしたかと思うと、目の前に黒い影が覆い被さってきたのだ。
「んっ…」
回転していく星空が見えなくなり、代わりに仙道の唇が触れてきた。少し触れた
だけですぐ離れたけれど、もう一度降りてきたそれは今度は深くしっかりと花道の
唇を塞いできた。
するりと忍び込んできた舌が花道のそれを絡めとって小さく吸う。
ゆっくり、ほとんど味わうようにして口付けてくる仙道の指が頬や首筋を撫でて、
髪を梳いて行く。
薄目を開けていた花道は目を閉じて覆い被さる広い背中に腕を回した。
クリスマスの夜、星空の下で交わすキスはとても優しくて安心する。
心地よすぎてうとうとしてしまった花道は、おでこにちゅっと口付けられて目を
開けた。
鼻先が擦れあう程間近に男前の顔がある。あまりに至近距離なので、またすぐ
に目を伏せて回した腕に力を込めた。
何も言わず首筋に顔を埋める仙道をぎゅっと抱きしめる。
耳元に息が掛かり小さく肩を竦める花道へ仙道は小さな声で何事か告げる。少
しだけ顔を上げた仙道へ、今度は花道が小声で答える。
くすくすと微かに笑う声が星空の下にさざめいて行く。
−結婚して良かった
−俺もだぞ
−今、すっごく幸せだよ
−俺の方がもっと幸せだ
−ケーキ、後でゆっくり食べよう
−冷蔵庫に入れなくても良いのか?
−良いよ、ここにいて
−…うん
得てして新婚さんの2人というものには、クリスマスの夜に食べるケーキよりも
遥かに甘くて素晴らしいデザートが最後に残してあるもの。
そう、当然この2人にも。
世界中の人が、この日だけでもハッピーな気持ちになれることを祈って。
VERY MERRY CHRISTMAS!!
旦那さまが高校教師の仙道、若奥様はその教え子の花道。
実は10年程前に放送していたドラマのパロディになります。
ドラマのタイトルは【お願いダー●ン!】
フ●TVで放送していた「僕達のドラマシ●ーズ」の中の一つです。
覚えている方、いるかしら(笑)
物凄く大好きなお話だったので、ぜひ書きたいと思ってました。
今回花道のお母さんがちょっと出てますが、本編ではもうちょっとだけ活躍します。
ハッピーでラブラブなコメディの予定なので、肩の力を抜いて読んでくれると嬉しいです。
ちなみに今回の話に出てくる地球儀は実在するかどうか分かりません(笑)
少なくとも私は見たことが無い。
こんな地球儀があったら良いなぁと思った私の創作なので、ご了承下さい(笑)
(2002年12月21日初出)
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