【ラブポップ ―幸せな人達―】
 (3)












 会計を済ませ、男2人に帰りのタクシーを捕まえて貰う間、彩子と松井は化粧室へ寄った。

 店の騒がしい音を背中に外へ出ると、停車したタクシーのそばに流川と花道が並んで立っていた。

「夜はさすがに冷えるな!」

「ああ」

 何気ないその会話と2人の後ろ姿に松井はふっと口元がほころんだ。

(ホントに上手くいってるんだ)

 あらためて実感出来る。

 同人をやっていた頃は、パートナーなど要らない、漫画があれば良いんだと言っていた流川。

 けれど、今その後ろ姿は穏やかな雰囲気を纏っていて安定している。

 松井は隣を見ると同じように2人を見て笑みを浮かべている彩子を見つけた。

「ラブラブですね」

 茶化して言うと「ラブラブでしょ」と同じく茶化した言葉が返ってきて、二人とも思わず吹き出してしまった。

 笑い声に気付いた花道達は振り返って「何やってんすか」と不思議そうな顔をする。流川はというと、なんだか呆れ顔だ。

 松井は笑いながら、スタスタと花道の横へ歩いて行き、花道を見上げる。

「桜木」

「え?」

「……」

「なんすか?」

「……」

 花道の顔は全く邪気が無いもので、松井はその顔を見上げ突然ニンマリ笑うと、花道の脇腹へ堅く握った拳を押しあてグリグリグリグリッ!と捻じ込んでやった。

「うひ!くすぐってえ!」

「この幸せなヤツらめー!」

 笑ってますますグリグリ押し当てると花道は身を捩って「何すんだよ松井サン!!」と顔を赤くして涙を浮かべ悶えている。

「何やってる」

 流川はその様子にふーっと溜息をつき小さく「どあほう」と呟いてやはり呆れていた。

 そんな様子に彩子は笑いながら言った。

「今日はお疲れ様。楽しかったわ。また飲みましょう」

「あ!こ、今度は鍋なんかどうっすか?俺、作るし」

 松井からなんとか避難した花道は、耳まで赤くして涙目のままそう言った。

「あ、良いね鍋!」

 彩子と松井は上機嫌で同意した。

「それじゃ次回はあんた達のところで鍋にしよ!決定!」

 松井がそういうと「忘年会って感じが良いかもね」と彩子が続けた。

「そうっすね!忘年会ってことで!ッシャー!」

 花道が気合を入れた途端ビュゥーッと冷たい風が吹いた。

「サムッ!」

「せっかく酒と食事であったまったのに、立ち話で風邪引いたらつまんないわ」

 そう言いながら松井は肩を竦めた。

「それじゃもう行きましょう」

「そうですね」

「あ!流川、悪いけど明日また進行状況連絡してちょうだい」

 タクシーにそそくさと乗り込みつつ彩子が言うと、流川は頷きタクシーから離れた。

 バタンと戸が閉まると、ドア越しに彩子と松井は手を振りそのままタクシーは走り出した。

 暖かい車内でホッとした松井は「さて。萌え補充もたっぷりしたし、これでまた明日から頑張れるわ」と楽しそうに言う。

 そんな松井に「忘年会楽しみね」と彩子が笑った。

「忘年会は良い酒持って、二人の愛の巣に押し掛けてやろうじゃない」

 その松井の言葉に、彼女達はタクシーの中で人目を憚らず声をあげて笑ってしまった。
























「行っちゃったな」

「ああ」

 遠ざかるタクシーを見送り、花道はわずかにつまらなそうな顔をした。

「次なんて直ぐだ」

 慰めるような流川のその一言に花道がクスッと笑う。

「だな!もう来月だし。何鍋が良いか後でリクエスト聞いとこ」

「普通で良いんじゃねえの?」

「そんなんじゃつまんねえだろ!今はカレーとかトマトとか豆乳とかあるんだしよ」

 その言葉に流川はふーっと息を吐き「俺はなんでも良い」とボソッと呟いた。

「ったく、作り甲斐が無いヤツだなぁ」

 不満げに口を尖らす花道の鼻の頭が赤く染まっている。

 見ればブルッと体が震えている。

「寒いか」

「ん?あー、まあ酒入ってるからまだ平気だけど。ちょっとな」

「どこかでコーヒーでも飲んで帰るか?」

「うーん……」

 暫く唸った花道は「いや、帰る」とキッパリ言った。

「もう俺らも帰ろうぜ」

 そうだな、と言いかけて流川の声は途切れた。

「愛しい我が家に!」

 そう言った花道の顔は恥ずかしそうに照れた表情をしていて、見るからに幸せそうだった。

 流川はなんだかとてもくすぐったい気持ちになり、花道へ口吻けたくてたまらなくなってしまい困った。

(どあほうめ…)

 帰宅して玄関を閉めたら即実行しようと心に決め、流川は花道の背にそっと手を添え、歩き出した。

 暖かい、2人の家に。











 END



















ラブポップもここまで来ました。本当は前2作で終わりだったんですが、
松井さんネタがあったことを思い出して…。
全然流花じゃなくて済みません(汗)それだけが不安です…。
しかも前のラブポップ読んでないとあんまり意味無いかもしれない(汗)
つくづく不親切な小説です、申し訳ない(汗)
この中でやっと出て来た人物が赤木の実妹=晴子です(笑)
実は他にも桑田くんとか安田くんとか居るんです。藤井ちゃんもね。
松井さんと流川の知り合った経緯もモヤモヤとあるけど、
花道が完全に居ないからなぁ…。それと同じく花道と晴子ちゃんの話
になると流川が居ないし。ってわけで、きっともう出て来ないです(笑)
これで漫画家シリーズは一旦終了。続きはいつか流花の神様が降臨
してきたら、と思います。2人の馴れ初めはいつかそのうち…。
少しでも楽しんで貰えたら嬉しいです。
最後に。流花の日、おめでとう!


(2010年11月13日初出)










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