【特別な一日(2004ver)】  (1)






「みんな!明日は前に言った通り、お昼は花見だからね!お弁当持ってこないように!良い?!」

「ウッース!」

彩子の伝達事項に元気良く答えた部員達は、隅に置いていたタオルを拾うと、体育館を後にする。

「おい、いよいよだな…」

「うん……」

「なんだよ、緊張してんのか?」

「ち、違うよ!これは武者震いだっ」

「おれはちょっと緊張してる……かも」

「実はおれも……」

 部室へ行く廊下で、部員数名がコソコソと話ながら歩いていた。

 やがて彼らは誰からとも無く立ち止まった。

「…………」

「…………」

「……最後の仕上げ、やっとく?」

「だな」

「うん!」

「んじゃ、そういうことで」

 みんなが深く頷いたところで、そそくさと部室へ向かった。

 これから駅前のカラオケボックスへ行く為に。














 翌日。

 春休み真っ最中である今日。

 午前中の部活を終えて、湘北バスケ部はお昼を兼ねてお花見をすることになっていた。

 場所は近所の公園。

 と、言いたいところだが、部活をしている彼らには場所取りなんぞ出来る筈も無く。

 結局学校の裏庭でやることになった。

 そこは太陽の光がよく当り、広い場所にベンチや花壇がある。

 桜の木も校庭程では無いが、そこそこ植わっているのだ。

 空は文句無しの快晴。

 まさにお花見日和だった。

「いや〜、良い天気だなぁ〜」

「ホントに!やっぱり日頃の行いが良いから」

「え?俺のこと?」

「アタシのことに決まってんでしょ!」

 彩子がペットボトルを持ち、宮城はその隣でほかほか弁当(1個680円也)を数個抱えていた。

「アンタの日頃の行いじゃ、この晴天は無理ってもんよ!」

「そんなぁ〜」

 グスン。

 ちょっと拗ねながらも、宮城は誰が見てもウキウキと彩子の隣を歩いていた。

「桜木ー!そっち頼む!」

「任せろ!」

 花道は一番大きな桜の木の下へ、青いビニールシートを敷いていた。

 片方を安田が持って、二人で広げる。

「それじゃ弁当、並べるか」

「紙コップどこ?」

「割り箸は?」

 花見の準備が着々と進んでいく。

「流川!アンタは向こうから並べて!」

「ウッス」

 宮城と彩子の後ろから同じく弁当を抱えて歩いていた流川が、マネージャーの指示に従って弁当を並べていく。

「どけ、どあほう。邪魔だ」

「あんだと!」

 腰に手を当てて桜を見上げていた花道へ、流川が割り込む。

 すわ喧嘩か!と思われたが………。

「はい、邪魔邪魔!」

「ぬっ!」

 潮崎が2人の間を縫うように紙コップを置いていく。

「はい、どいてどいて!」

「ム…」

 次は角田がカットされたオレンジやバナナが乗った紙皿を置いていった。

「…………」

「…………」

 すっかりタイミングを逃した2人は暫らく見つめ合い、フンッと鼻息を漏らすと再び花見の準備に戻った。

 花見の席で喧嘩するのも馬鹿馬鹿しい。

 花より団子…ならぬ、喧嘩より弁当ということだ。(意味はちょっと違う) 

「それじゃみんな好きなところに座って!あ!桜木花道はこっち!」

 彩子が手招きしているその場所は、場所的に言って上座になる。

「今日はあんたの誕生日も兼ねてるんだからね。いわば主役よ、主役。分かる?」

「しゅ、主役………」

 花道はちょっと照れつつ頭をかいた。

「この天才を祝うってことデスカ!彩子さん!」

「そうよ!あとでスペシャルゲストも来るから」

「スペシャルゲスト?」

「誰のことですか?」

 2人の会話を聞いていた面々が疑問符を投げる。

 それに対して彩子は含み笑いをしつつ「内緒!」と言った。

 花道はご機嫌でシートの指定席へ腰を下ろした。

 そして何故か隣を見ると、当然のように流川が居た。

「いつの間に…!」

 驚く花道に、平然と流川が答える。

「気にすんな」

「ほ、他にも場所空いてるだろうが!あっち行け!」

 花道がシッシッと追い払う真似をする。

「おめーが行けよ」

「なんで俺が!俺は主役なんだからココで良いんだ!」

「じゃぁ、俺もココで良い」

「なんで!」

「なんでも」

「あっちに行けー!」

「嫌だ。俺はここが良い。桜がよく見えるから」

「どこでも見えるのは同じだ!」

「いいや、違う。全然」

「はぁ?!」

 言い争いをしつつ、流川は花道の紙コップと自分の紙コップへ良く冷えたウーロン茶を注ぐ。

(なんだかんだ言って、隣に座りたいだけだよな、流川………)

(文句言いつつ飲み物の世話してるしなぁ……)

(つくづく独り者には目の毒だよ………、このバカップル………)

 腰を下ろした部員達は、やや冷めた目で2人のやり取りを見ていた。

「あ、そこは3つ空けておいて!もうすぐ来ると思うから」

 桑田が座ろうとすると、彩子に止められた。やむなく花道の左隣を3つ空けて座る。

「誰が来るんだろう…」

「3人か…」

「うーん…」

 スペシャルゲストが一体誰なのか。部員達はとても気になっていた。

「あ!!」

 考え込んでいた部員達の中で、1人が声をあげた。

 あそこに見えるのは、もしかして……。

「先輩だ!」

「あぁ!!ゴリ!」

「三井さん!」

「木暮先輩も!」

 噂をすれば影。

 まさに今、そのスペシャルゲストが3人やってきたのだ。

 彩子が呼んだ人物とは、つい数週間前に卒業式を終えた元バスケ部の先輩達だった。

「先輩!こっちこっち!」

「やぁ、彩子。呼んでくれてありがとう」

「いえ、先輩方も進学の準備でお忙しいところ済みません!」

「おい宮城!これ差し入れだ!」

「おぉ!三井さん、太っ腹!」

「ま、まぁな!」

 ちょっと胸を張った三井に、背後から赤木が一喝した。

「バカモン!俺たちも払っとるわ!」

 3人のカンパで、ドライアイス付きのアイスクリームを差し入れた。

「丁度、デザートが欲しいと思ってたんですよ!果物だけじゃ間に合わないかもと思ってて」

「まぁまぁ、立ち話もなんだから座って下さい!」

「飲み物、何にします?」

 席に落ち着いた先輩達をたちまち部員達が囲む。

 花道の隣には赤木が座った。

「ゴリ!久しぶりだな!」

「フン。練習はやってるのか」

「当りめぇだ!この天才―――」

「はい!みんなー!そろそろ始めるわよー!」

 花道が大威張りで演説を打とうと思ったら、彩子の声に出鼻をくじかれた。

「ぐぬ〜、彩子さん……」

 少しだけ恨めしげに彩子を見ていると、横からいつもの合いの手が入った。

「どあほう」

「やかましい!キツネ!」

 勢い良く振り向いて流川をキッと睨んだ。

 そんな花道にフーヤレヤレと溜息をつく。

 彩子はそんな2人を完全に無視して、幹事として宴席を進めて行く。

「今日はみんなで花見をしながら、桜木花道の誕生日のお祝いをします!まずは、来て下さった先輩方。改めて、お忙しいところありがとうございます」

 彩子は軽く会釈をした。

「先輩方には卒業式の日にこっそり連絡しておいたんですが、皆さん進学の準備があるのでどうかなぁと思ってました。でもこうやって来て下さって、ホントに感謝しています」

 部員の中には知らない人もいると思うので、ちょっと説明するから。

 そう言って彩子が1人ずつ進学先の学校名をあげていく。

 部員達から「おお!」と歓声があがる。

 3校全て、それなりに名の知れた大学だった。

「何だか照れるなぁ、改めて言われると……」

 木暮が照れくさそうにぽりぽりと頬を掻いた。

「確かにな……」

 赤木も少し照れていた。

「まぁ、俺はこれくらい当然だけどな。お呼びが掛かっちゃ、行かない訳にはいかないし!」

 三井は照れくさそうに、しかしまんざらでもなさそうだった。

「冬の選抜はさんざんだったクセに……」

「あぁ?!宮城!テメー、今なんつった!聞こえたぞ!」

「まぁまぁ!」

「今日はおめでたい日ですから!」

「無礼講、無礼講!」

 周りが必死で三井を食い止める。

「そういうことで。先輩方、進学おめでとうございます!」

 彩子がまたしてもあっさり無視して、幹事として先を進める。

『おめでとうございまーす!』

 祝辞を改めて述べた後輩達に、赤木達は笑みを浮かべて礼をした。

「そして!今日の主役はこっち!桜木花道!」

「天才!」

 花道はやっと出番が来たとばかりにVサインをしてみせる。

「今日はこの子の誕生日なので、後でささやかなプレゼントがあります。あと、みんなに予め言っておいた一発芸も披露して貰うからね!」

 彩子さんの声にどよどよと場が騒がしくなる。

「はい、それじゃみんなコップ持って!乾杯するよ!」

 全員が飲み物の入ったコップを持ち、乾杯の音頭を待つ。

「それじゃ乾杯しまーす!桜木花道!誕生日おめでとう!」

『おめでとうー!』 

 カンパーイ!

 ―――こうして花見は始まった。
























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