【特別な一日(2004ver)】  (2)







 宴もたけなわ。

 みんながめいめい食事をして、ゆったりとしたお喋りが始まっていた。

 その様子を見ていた彩子が、安田に目配せする。

 安田がコクリと頷いた。

「はーい!みんな注目!」

 何だ何だ。

 まったりとした時間を過ごしていた面々が彩子を見る。

「それじゃこれから宴会芸を始めるよー!」

 その一言でビクッと体が跳ねた数名の部員が居たことにも気付かず、彩子はさっさと進行する。

「順番は前に言ったまま変更無し。だから一番は…………」

「ハイ!」

「ハイ!」

 彩子が言い終わる前に2人が挙手した。1年の桑田と石井だ。

 2人はケミスト●ーの2人を真似たり、小ネタでタモリとさんまをやった。

 芸の最中、カメラのフラッシュが数度起こる。

 安田がカメラマンになっていた。

 2人のモノマネは、ベタな内容なのに意外な程似ていて、好評だった。

「お前らすげーな!似てる似てるっ!」

 周りや先輩の賞賛に照れ笑いする2人は役目を終えたとばかりにシートに腰を下ろした。

「ええと、次は……」

「………」

「………」

「………」

 彩子の司会に無言で立ち上がる者が3人居た。

 2年の潮崎、角田。

 そしてカメラマンの安田。

 無言で立ち上がるその姿は、何か鬼気迫るような、否、覚悟を決めたような、一種異様な雰囲気を醸し出していた。

「なんか…凄い気合…」

「どうしちゃったんだろう…」

 そんな周りを気に止めず、手持ちのカメラを彩子に預けた安田は、傍らにあるラジカセにMDをセットする。

 その様子を見守っていた潮崎が、突然叫んだ。

「おニャ●子クラブの【セーラー服を脱が●ないで】、行きます!!!」

 その声を合図にMDを再生した。

 懐かしいイントロが流れた。





チャッチャッチャラッチャッチャラ〜♪

チャッチャッチャラッチャッチャラ〜♪

セッエッラー服っを!

脱っがっさーないでっ!





 めちゃくちゃ真面目な顔をしながら、3人の男たちが踊る。

 息がぴったり。

 一糸乱れぬとはまさにこのこと。

 ………相当練習したようだ。

 キュッキュッと腰や腕を軽快に動かす。

「………」

「………」

「………」

 その場の者達は、最初こそ呆気に取られていた。

 しかし、暫らくすると堪えきれずに皆一斉に涙をボロボロ零して笑っていた。

「も、もう辞めろ〜!」

「こ、腰の動きがキツイ〜!」

「ヤス!最高!」

「クソ真面目な顔して踊るな〜!」

「腹が捩れるー!!」

 みんながヒーヒー笑っていると、曲が終わってしまった。

「ええ!もう終わり?もっと見たーい!」

 彩子が言うと、他の者達も皆一斉に「アンコール!」と叫びだした。

 どうせ他の曲は用意してないんだろうと思った皆は、同じ曲で良いからもう一度見たい!と切実に思っていた。

 するとどうだろう。

 違う曲が流れ始めたでは無いか。

「これって……ミニ●ニ。…?」

「マジ…?」

 どうやらしっかりとアンコール用の曲を準備していたようだ。

 選曲に目が点になった皆は、それでも3人の踊りに爆笑していた。

 意外や意外。

 結構可愛い…(笑)

 ……結局ノリノリで、その後もう1曲踊って、3人の出番は終わった。

 3人は清々しい開放感に浸っている。

 額に浮かぶ汗が眩しい…(笑)

「はぁぁぁ………、笑い過ぎて喉痛い……。ええと、次は……」

 彩子が目尻の涙を拭いつつ、進行表を見た。

「次は俺らだよ、アヤちゃん!」

「おお!ついに出番が!」

 宮城と花道が勢い良く立ち上がる。

 花道は本来なら見る立場であるが、お祭大好きな子供は黙っていられる訳が無い。

 宮城とガッチリ肩を組んで、丁度流川の背後へ立つ。

「何やる気だ、お前ら〜」

 三井が不審な目付きをする。

「何やると思います?」

「なんならミッチーも混じって良いぞ!」

 2人がニヤニヤしながら三井を見る。

「だぁから!何やるんだよ!」

『ケツ文字!』

 ハモって言ったその言葉に、いち早く反応したのは誰でも無い。

 流川だった。

「どあほう!!」

(お前のケツをここにいる奴らに見せる気か!)

 顔面蒼白で後ろを振り返り、急いで立ち上がろうとした。

 しかしそれを他の部員達ががしっと掴んで止める。

「流川!今日は無礼講なんだ!お前は黙って見てろ!」

「今日は桜木の誕生日なんだから!好きなようにやらせなよ!」

 1年や2年が寄って集って流川を引き止める。

 流川はそんな拘束を振り払おうとするが、がんじがらめにされて身動きが取れない。

 いつもは喧嘩している2人を止めに入ることすら出来ない彼らは、なぜかここぞとばかりに結束していた。

 いくらもがいても拘束が弛むことは無い。

「どあほうっ」

「キツネは黙って見てろっつーの!」

 上機嫌で見下ろす花道を、押さえ込まれたまま悔しそうに見上げる。 

「チッ」

 舌打ちするが、周りは意に介さない。

 流川を無視して事は進む。

「問題に全問正解したヤツには、俺たちの熱いキッスをあげちゃうぜ!」

 すると外野が一斉に「いらねー!」「ざけんなー!」と悲鳴や笑いが起こる。

 勿論「どあほう!」という声も聞こえたが、完全無視だ。

「んじゃ、始めっか!」

「おう!」

 元気良くスタートしたケツ文字。

 まずは簡単なものから適当に始まる。



 ひらがなの【た】。
 ひらがなの【の】。
 カタカナの【ソ】。



 宮城と花道が交互に出題していく。

 流川は、結局目の前で動く花道の形の良い見事なケツに不覚にも目が奪われてしまった。

 ケツの動きをなぞる様に、流川の眼球が動く。ついでにちょっと頭も動く。

 口は微妙に半開き。

 ………少々間抜けな横顔だった。

(おいおい…流川のやつ、釘付けじゃん)

(まぁな。なんだかんだ言って、桜木のケツが一番好きなのは流川だし)

(試しに手を放したら…どうなる?)

(そりゃ当然!)

(ケツにかぶりつきでしょう!)

(やっぱり!…………って!)

「彩子先輩!」

 ひそひそと会話する部員達(現在流川を拘束中)に背後から迫り、彩子が覗き込んでいた。

「あんたたち、気を抜いて手を放しちゃ駄目よ?」

 花道のケツに頭を突っ込む流川なんて見たくないでしょう?

 マネージャーの言葉に、一瞬頭の中でその様子を想像しかけた部員達は、一様に青ざめた。

 流川を押さえつける力が強まったのは言うまでも無い。

「よっしゃー!ここからはスゲー難しくなるぜー!」

 花道が振り返り、腰をクイクイ捻り背伸びをする。

 拘束されている流川を気にもせず、花道は笑顔を振り撒いてまた背を向けた。

「どあほう!」

 いい加減にしろ!

 引き締まった麗しいケツに見惚れていた自分を棚に上げて、辞めさせようと怒鳴り、また暴れ出した。




―――――そして悲劇は起きる。




 決して拘束の手が弛んだ訳では無い。

 突発的な事故だったのだ。

「おわーーー!!」

「花道!!!」

「危な――!」

「桜木っ」

 部員達の悲鳴の中、悲惨な事にマネージャーの言葉が現実になってしまった。

 あまりにも花道のケツの動きが激しかったらしく、ビニールシートの上で足を滑らせてしまったのだ。

 そのまま後ろへ尻餅をつくかと思われた。

 しかし、後はご想像の通り。

 流川の顔が、花道のケツにメリ込んでしまった。

 いや、正しくは流川の顔に花道のケツが襲い掛かったと言うべきか。

 そりゃぁもう、思い切り割れ目に。

 短パンを履いていたからと言って、所詮薄くて柔らかい布地だ。

 ぬくもりと感触がダイレクトに来る。





ソフト アンド スウィート……………。





 流川はフガフガと喘ぎつつ、頭の中に浮かんだ唯一覚えている英単語の中から相応しいものを選び出し、呟いた。









 ―――――暗転。















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