【特別な一日(2004ver)】  (3)







 ケツに突っ込んで口と鼻を塞がれた流川は、逃げる事も忘れて花道のケツを堪能していた。

 そして酸欠で気絶した。

 気が付いたらとっくに夕方で、流川は部室のベンチで寝かされていた。

 傍らに花道がいるだけで、他の部員は見当たらない。

「よぉ。目ぇ覚めたかよ」

 流川は瞬きを繰り返した。

 そんな様子を花道が覗き込む。

「…………」

 のそりと起き上がり頭をボリボリと掻く。

 額から濡れたタオルが落ちる。

 そして鼻の穴にティッシュの詰め物。

「お前、首大丈夫?」

「首?」

 言われて首に手をあててグルリと回す。特に異常は無いようだった。

「彩子さんがムチウチになってるかもって言ってたからさ」

「ムチウチ……」

 そして思い出す。

 【ソフト アンド スウィート】なあの感触を。

「あ………」

 思わず花道の腰を見た。

「お前の顔、潰しちまったかと思ったぜ」

 花道がすまなそうに言った。

「……」

 自分の静止も聞かず、ケツ文字なんぞをやりやがった花道を叱りたかった。

 しかしあの気持ち良さをモロ味わって、あまつさえ気絶してしまった自分のダメさに、もはや叱る気力も無い。

「気にすんな…………帰る」

「お、おう!」

 流川は己の鼻に刺さっているティッシュ(鼻血付き)をスポンと抜いてゴミ箱へ放り投げる。

 鼻の下を軽く擦ってスンと鼻を啜ると、のそのそと着替えて、2人は自転車置き場へ向かった。

「どあほう、なんだそれ」

「あ、これ?これはケーキだ」

 彩子と晴子が作ってくれた手作りケーキ。

 部員達からのプレゼントだった。

 流川が気絶した後。

 花道と赤木と三井の3人で部室へ流川を運び、宴席を再開した。

 宴会芸は当然強制終了だ。

 マネージャー(晴子は急用の為欠席)2人の力作ケーキにローソクを立てて吹き消し、ケーキを人数分に切り分けた。

 みんなはその場で食べてしまったのだが、流川の分は持って帰るように花道に持たせた。

 ついでに晴子の分だったケーキも花道へ分ける。

『流川も会費払ってるからね。ちゃんと食べさせてよ』

 彩子はそう言いながら、ケーキを二切れ入れた小さい箱を花道に渡した。

「ふーん…」

 流川が話しを聞きつつ自転車の鍵を差し込んだ。カチッと音がする。

「…………」

「どあほう?」

 黙って箱を見ている花道へ、どうしたんだと声をかける。

「これ。同じ箱に入れてるじゃん。どうすんだよ」

 どちらかが持って帰ると、どちらかが食べられない。

(先輩…ナイス…)

 流川は心の中でマネージャーに感謝した。

「行くぞ」

 後ろに乗れ。

 流川が自転車に乗って花道を見た。

「おい!これ!どうすんだよ!」

 焦った花道に、良いから乗れと促す。

 仕方なくママチャリの後ろに立ち乗りした花道から箱を受け取り、前に付いている籠に入れた。

 そしてグイッとペダルを踏み込んだ。

「おい流川!ケーキどうすんだよ!」

「俺んちで一緒に食えば良い」

「えぇ!」

 あわよくば、1人で2個食べてしまおうと思っていたので、少しだけ落胆した。

「お袋が……お前連れて来いってよ」

 飯食わせたいって。

 流川がそういうと、目を見開いた花道は、流川の肩にぎゅっとしがみ付いた。

「良いのかよ」

「あぁ」

「だって、看護婦サンなんだろ?仕事大丈夫なのかよ…」

「休みだから」

「………」

「………」

「エイプリフールじゃねーよな」

「あぁ」

 まだ1度しか会った事が無い流川の母親。

 ちょっとキツそうな第一印象。

 そしてとにかく美人だった。

 看護婦で忙しい彼女とは、ほんの一瞬だけ挨拶程度しか会っていない。

 その一瞬で花道のことをどう思ったのか、実は少しだけ気になっていた。

「お前と話がしたいって。自分と同じものを感じる…とか言ってた」

「は?」

「…………」

 確かに威勢の良いところは、流川の母親と花道は似ている。

 あの母親は一瞬の対面で、花道に同類の何かを見つけたらしい。

 好奇心の強いあの母親らしい。

「お前はスゲーよ」

「何?」

 風の音がして良く聞こえない。

 流川は深呼吸して少し声を大きくして話す。

「ゴ……先輩達も、みんなお前の為に集まったんだ」

「……」

「お袋も……お前に会いたいって」

「……」

「俺も……」

「……」

 好きな人が出来て告白して付き合うなんて、自分がやるとは思っていなかった。

 恋愛に興味の無い自分を、こんなかっこ悪いダメオトコにしてしまった花道。

 エッチなことにも関心が無かった筈なのに、今は花道のケツ文字にさえ心臓がバクバクするようになってしまった。

「どあほう」

「…あんだよ」

 ぶっきらぼうなその言い方は、花道が今照れている証拠だ。

 きっと今は頬を染めてあらぬ方向をキョロキョロと見回しているんだろう。

 背中にいるのに、その様子は手に取るように分かる。

 流川は口元を緩めた。

「良いケツしてる」

「はぁっ??」

 花道は突拍子も無い言葉に驚いた。

「今晩、もう一回やらせろよ」

「な、な、な、な……何言ってんだ、バカ!」

 後ろで喚いている花道は、それでも流川の肩に置いた手を離さない。

 むしろ強く掴んでくる。

 流川は、リズムを崩さず自転車を漕ぎ続ける。

 前方に自宅が見えてきた。

 いつまでも後ろでガーガー喚く花道が面白くて、そしてこれから始まる母親と花道との対面を想像して、ついつい笑ってしまった。

 そして柄にも無く(あぁ幸せだなぁ…)なんて思ったりした。







 
――――誕生日おめでとう。





























2004年バースデーSS第2弾。
【彼は恋するダメオトコ】の2人ですが、これだけでも全く問題無く読めます。
花道のケツに顔を突っ込む流川を書きたかっただけなんです。←マジかい
それから宴会芸の部分(笑)
冒頭に登場した3人の部員はおニャ●子を歌った人達です(笑)
バースデーSS第1弾(第1弾は恋火6です)が片思いネタだったんで、
その反動でどうしても両思いのコメディを書きたかったらしい……。
相変わらずダメオトコでした(笑)
バースデーに2つSSをUPするなんて、これが最初で最後かもしれません(汗)
まだまだお祝いの気持ちでいっぱいです。何度も言いたい。
誕生日おめでとう、花道!


(2004年4月10日初出)









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