【HappyCapsule】  (4)









 その日の夜。

 キングサイズのダブルベッドの中で、仙道と花道は並んで横になっていた。

 仙道はベッドヘッドに大きめのクッションをあてがい、そこに背を預けて文庫本を読んでいる。

 かたや花道はうつ伏せになり、昼間洋平に借りた料理本を眺めていた。

 二人共お揃いのパジャマを着て、もう眠る準備はいつでもオッケー状態だ。

「そう言えば………」

「あ?」

 文庫本から顔をあげて、仙道が思い出したように言った。

「教頭が言ってたんだけどさ。今、生徒の間で合コンが流行ってるんだって」

 ドッキリ!!

 花道の心臓が跳ねた。

 肩が跳ねなかったのは上出来かもしれない。

「ふ、ふーん………」 

 何気ない風を装い、花道はそっけなく返事をする。

 同時に昼間の信長を思い出した。

『水戸と旦那には絶対に!絶対に!内緒だからなっ!俺の為でもあるし、お前の為でもあるんだから!』

 部活の帰り際、信長が必死な様子で話していた。

『何で言ったら駄目なんだよ』

『………殺されるから』

『何だって?』

『い、いやこっちの話だ!とにかく!あいつらに知られるとめちゃくちゃ厄介なんだよ!頼むから!絶対言うな!』

『………わぁーったよ』

『そうか!分かったか!』

 渋々了解した花道は、安堵の笑みを浮かべ「じゃあな!」と去っていく友人を見送った。 

「どうも、A女学院とうちの生徒の合コンが多いみたいなんだ、話によると」

 ドキドキドッキーン!

 またしても花道の心臓が跳ねる。

(俺がそのA女と合コンやるんだ、って言ったらコイツびっくりすんだろうなぁ……)

 花道はドキドキしながらそう思った。

 思っただけで言わないけれど。

 だって信長と約束したのだから。

「うちの学校としてはそれほど気にして無いようなんだけど、どうもA女からクレームが来たみたいなんだ。ほら、あそこってお嬢様学校だろ?風紀にうるさいからな」

 お年頃なんだから大目に見てやれば良いのに。

 そう言って仙道が笑う。

「とりあえずリークされた情報を頼りに、店に探りを入れたりするらしいんだ」

「さ、探り?」

「うーん、ようするに合コンの現場をおさえて、現行犯逮捕するってことかな」

 教頭がやけに熱心なんだよなぁ、と仙道が続ける。

 花道は内心冷や冷やものだ(笑)

 嫌な汗をかきながら、花道は意味も無く料理本をパラパラ捲る。

「そんで………、なんと俺がその役に抜擢されちゃった」

 なんですとっ!

 花道は目玉が飛び出すかと思う程驚いた。 

 そろそろ〜っ、と首を動かすと、仙道が肩を竦めている。

「凄く面倒くさいんだけどさ。最初はリーダーをやってくれって言われたんだけど、それだけは勘弁して貰ったよ」

 隣で苦笑している男がペラペラ喋った内容を要約すると、ようするに仙道が今度の合コンの現場に乗り込んでくるかもしれないということだ。

(ヤバいって!) 

 花道は多いに焦った。 

 しかし、信長の恋の成就の為には、その合コンを阻止する訳にも、される訳にもいかない訳で。

(そうか!阻止されるからセンドーには黙ってろってことか!しかも相手はA女だし!)

 しかし、洋平には言っても良い気がするんだが。

 やっと信長の言葉の意味を理解したのは良いが、いまいち腑に落ちない。

「花道?」

「な、な、な、何だ?!」

 思わず声が裏返ってしまった。

「……花道は………そんなことしないよね?」

「そんなこと…、って?」

「合コン」

「は!?」

 素っ頓狂な声が出てしまう。

「ん?」

 仙道がニッコリしながら(しかし目は笑っていない…)顔を覗き込んでくるので、花道はどぎまぎと視線を逸らした。

「そんなこと、俺がするわけねーだろ!」

 こころなしか早口でそう言うと、仙道はそうだよな、と今度こそゆったり微笑んだ。

 花道は小さく溜息をついて、なるべく無関心を装いまた料理本に目を落とした。

 そんな様子を見下ろしていた仙道は、文庫本と掛けていた眼鏡を外し、サイドテーブルへ置いた。

「もう寝るけど、電気消す?」

「あ、あぁ、俺も寝る」

 ベッドの両サイドにあるスタンドの明かりを消して、二人一緒に布団へ潜り込む。

 花道は先程のやり取りが少し後ろめたく感じて、なんとなく気まずくて仙道のそばへ近寄れない。

 もぞもぞと背中を向けると、背後から腕が伸びてきて抱き込まれてしまった。

「セ……」

「花道……」

 仙道は耳元で花道の名前を小さく呼ぶと、赤い髪の毛に擦り寄ってきた。

「俺に隠し事するなよ?」

 夫婦なんだからさ……。

 その小さな呟きは、花道にじんわり沁み込んだ。

 顔が切なげに歪む。

(スマン……)

 心の中で謝りつつ、花道は罪悪感で胸がチクチクと痛んだ。

 それを消し去ろうと体の向きを変え、仙道の広くて暖かい胸にすがり付くようにして、眠りについた。 










 
 






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