【HappyCapsule】  (7)









「初めまして。A女学院一年の花園美雪です」

 なるほど信長の惚れた彼女は利発そうな少女であった。

 セミロングの栗色の髪が肩のあたりでクルンと巻いてあって、見るからにお嬢様スタイルで。

 目はパッチリしていて、ほんのりメイクも施されてある。

「は、初めまして!き、ききききき清田信長デス!!」

 最後の「です」が完全に裏声になっていた。

 それを幹事達は苦笑して見守っている。

 集合場所は有名なバイキングの店だった。

 時間無制限でメインからデザート、飲み物までオール食べ放題。

 しかも休日ランチなので格安なのだ。

『予約取るの苦労したんだぜ』

 と幹事が信長に耳打ちしていた。

 これで財布を気にせず心置きなく憧れの彼女と接近出来る!と、今日の主役ともいうべき男は幹事に心から感謝した。

 待ち合わせで合流したメンバーは、まず目的の店へ向かった。

 そして飲み物や食事を各々取り分け、落ち着いたところで自己紹介になる。

 信長は食事を取り分ける時、幹事に背中をどつかれ、手をぶるぶる震わせながら意中の彼女へ飲み物を用意してあげた。

「ありがとう」

 可愛い笑顔を向けられると、もうそれだけで心臓が破れるかと思う程ときめいた。

 席につき、自己紹介が始まると、信長はもう緊張のピークに達していた。

 声が思わず裏返ったのはその為だ。

 自己紹介も無事に済み、幹事の音頭で食事が始まった。

(タダで食えるんなら、腹がはちきれるくれえ食う!!)

 今の目的はとりあえず食べること。

 それに尽きる。

 信長を助けるという本来の目的を綺麗さっぱり忘れてしまったようで、花道はいちいち取りに行くのが面倒だからと、皿にとにかく山盛りで様々なものを取って来ていた。

 それがあっという間に平らげられていく。

「凄いねえ。そんなにお腹空いてるの?」

「んん?」

 端に座っていた花道は、口の中にポテトフライを詰め込んだまま顔をあげた。

 美雪がデザートのケーキを持って立っている。

 バイキングのある意味もう一つのメインへ突入したようだ。

 女子はここから第二ステージへ突入と言っても過言では無い。  

「バスケしてるんだよね。清田くんと同じなんだ」

「そ、そうなんだよ!俺たち同じチームで―――」

 信長が脇から美雪に声を掛けるが…。

「桜木くんだよね。身長いくつあるの?」

 あっさり無視された。

 美雪の横には一緒に食事を取りに行ったらしい信長が皿にパスタを乗せて立っていた。

 花道は話しかけられたことに驚いて、信長をチラッと窺う。

 美雪に軽くシカトされ、彼は見事に凹んでいた。

「あー、身長っすか。あーえーと………」

(どうすりゃいいんだ!普通に答えて良いのか?!)

 考えてみれば食べるのに夢中で、信長へ何も協力していなかった。

 かと言って、特にすることは何も無いのだが。 

 ここで、美雪と話したがっている信長の邪魔はいくらなんでも出来ない。

 一体どうすれば……と思っていると、美雪は幹事に「ねえ席替えしよう」と声をかけた。

 そしてちゃっかり花道の隣に座ってしまったのだ。

(な、なんか………)

 参加者の雰囲気が微妙におかしくなってきた。

 流石のニブチン花道もこの状況はなんだかマズイ気がする。

「桜木くん、このケーキ美味しいよ」

「へ?!そ、そっすか……あはは………あはははは……」

 笑うしかない。

 頬を引き攣らせ、花道はしきりに話し掛けてくる美雪にたじたじだ。

 そして本日の主役である筈のあの男は………花道の正面に座って、俯いてモソモソとパスタを頬張っていた。

 さっきも、そして今もまったく同じパスタだ。

 先ほどからずーっと同じ明太子パスタだけを信長は啜り続けていた。

(なんだかさっきより明太子パスタが塩辛いぜ…っ)

 信長はパスタを啜っているのか鼻を啜っているのか自分でも分かっていないようである。

 花道は花道で、これ以上ないほど困惑していた。

 誓って美雪に気に入られるようなことは何もしていないのだ。

 だって目線すら合わなかった。

 確かにどんな子かなと窺い見たが、それだけだ。

 それなのに何故だ?

 何故彼女は信長の隣ではなく花道の隣に座っているのだ。

 信長は口から明太子パスタを垂らしつつ、花道を上目遣いに恨めしそうに見ていた。

 その様子はまるで、テレビ画面の中からこちらに這い出て来る某幽霊S子のようである。

「あ、あのさ!そろそろ出ようか!」

 幹事が場を和ませようと一際明るい声を発した。

 雲行きが怪しくなってきたので、とりあえず場所を移して改めて信長と美雪を接近させなくては。

 幹事としての使命があるのだ!

 心配そうに、あるいは面白そうに成り行きを見守っていた他のメンバーも幹事の一声に賛同し、席を立った。











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