【HappyCapsule】 (8)
「…………なぜだ……」
「え?何?」
「いや!なんでも無いッス!」
呆然としたまま立ち竦む花道の隣で、下から覗き込むようにする美雪。
場所は変わってゲーセンである。
腹ごなしをするべく、メンバーはゲーセンへ向かった。
その間も美雪は花道のそばから離れなかった。
そこで先の台詞なのである。
「あ、ねえ、あれやろ?」
美雪は某シューティングを指差した。
「あたしね、あれ結構得意なんだ」
桜木くんは?
そう聞かれ花道は「あ……お、俺はちっと苦手……」と一歩後ろへ下がる仕草をすると、大丈夫だよ!簡単だから!と強く腕を引っ張られた。
(やっぱりこれは………)
非常にマズイ状況になってきた。
信長を見ると、やっぱり某幽霊S子のような顔で花道を見ている。
「あ!あの!」
「ん?何?」
「俺、あの…スンマセン!」
「え!桜木くん!?」
花道は美雪の手を振り切って信長へ突進し、彼の首根っこを掴んでトイレへ猛ダッシュした。
「おい!どうなってんだあれは!」
花道が掴みかかると、信長は怒った顔で「それはこっちの台詞だ!」と掴み返してきた。
「なんでお前にばっかりベッタリなんだよ!花園さんは俺が先に惚れたんだ!」
「んなの分かってるっつーの!俺だって聞きてえよ!なんで俺んとこに来んだよあのヒトは!」
二人共お互いの襟元を掴み上げながら泣きそうな顔になっていた。
「俺、何にもしてねーし、言ってねーのに……」
「俺だって何も話して無いし、シカトされるし……」
二人は顔を見合わせて、大きく溜息をつく。
「……はあああああ…」
信長は床にしゃがみ込んだ。
花道もそれに倣う。トイレにヤンキー座りだ。ちと怖い。
「でもやっぱ……可愛いよなあ……」
頭を抱えつつも嬉しそうにデレデレする信長。
それを見て花道もニヤリと笑う。
「あれがキミの好きな人かね。野ザルには勿体ねえな」
「うっせー!一言余計だ!」
確かに自分でもちょっと高望みし過ぎかと思わなくも無いが、横から言われると腹が立つ。
「だいたい協力するって言ったくせに何もしねえじゃねえか!」
「ああ?着いていて飯食うだけだって最初に言ったのはそっちじゃねえか!」
「おま!この前成功させるぜ!って気合入れただろうが!」
次第に言い争いになってきた二人を探しに来た幹事がトイレに現れ、二人を見て驚いた。
「お前ら何やってんの?行くぜカラオケ」
「へ?」
「あ、お、おう!!」
呼ばれた二人は慌てて立ち上がった。
どう見ても、美雪は花道が気に入ったようだった。
花道は他のメンバーの配慮により、なるべく美雪の近くへ座らないように誘導された。
しかし、現在。
なぜかやっぱり美雪は花道の隣に座っていた。
信長は美雪を挟んで花道の反対側の席へなんとか座れた。
しかしどうみても、美雪は信長に関心が無いようだ。
合コンに参加しているメンバーは正直言って、なぜ美雪が花道に惹かれるのか全く理解出来なかった。
確かに話をしてみると意外に面白いヤツだなーとは思ったが、それでも皆は首を傾げるばかりであった。
連れて来るヤツには既に恋人がいるんだと信長から聞かされていたので(さすがに結婚しているとは言えない)、どんなやつだろうとは思っていたが。
「桜木くん、これ一緒に歌おう?」
ニコニコしながら身を寄せてくる彼女に、花道は顔が引き攣ってきた。
美雪の向うから冷たい空気がヒュ〜と吹き付けてくるような気配がする。
見るとやはりまた某幽霊のような信長が。
生まれてこのかた女の子にこんな風に接して貰ったことなど無い花道は、積極的な美雪に少し引いてしまう。
「あ、あの……」
「なあに?」
「あの……近い……っス」
「何が?」
「いや、その………」
そう言いながら美雪から離れようと尻を浮かすと、相手も合わせて近寄ってくる。
逃げられない。
「うう…っ」
「桜木くん?」
これが所謂「針のむしろ」ってやつなのか。
花道は一つ実地で理解した。良いお勉強になりました。
「お、俺、ちょっと……便所!」
もはや我慢出来なくなった花道は人が歌っている最中にも構わずデカイ声で宣言し、またしても追いすがる声を振り切り狭い部屋を飛び出した。
「もう知らん!野ザル!あとはテメーでなんとかしやがれ!!」
流石の花道もふんわり甘い香りがする可愛い女の子に接近され緊張していたようで、顔が赤い。
肩でぜいぜい息をすると、とりあえず「便所どこだ?」とフラフラ歩き出した。
狭い通路の両側からは色々な歌声が響いてくる。
ガラス戸の向こうをチラチラ覗くとソファから立ち上がり拳を振り上げ気持ち良さそうに歌う人や、肩を組んで左右に揺れながら合唱している者達もいる。
歌うことは花道も大好きだ。
洋平や信長とは時間があれば行くこともある。
(そういや仙道とは来たことねえな)
あの男が熱唱するところはあまり想像出来ない。
でも面白そうだ。
今度連れて来よう!
そんなことをツラツラと考えつつ、トイレはどこだとキョロキョロ辺りを見回した瞬間、花道はその場に急停止し、目を限界まで見開いた。
「仙道!?」
前方に大変見慣れたツンツン頭の背の高い男が現れたのだった。
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