【 秘密基地 2 】 (2)
「どあほう…」
帰宅した流川は自室のベットに横になると、天井を仰ぎ見た。
告った後、花道が突然熱を出したので、慌ててベットに寝かせた。
とりあえず熱が高いので見つけたタオルで額を冷やす。
花道の親は夕方にならないと帰宅しないので、流川は結局そのままうんうん唸る花道の側にずっと着いていたのだ。
告白に、顔を青くしてビビッて腰が引けていた花道。
ちょっとだけ反省する。
でも言ったことは嘘じゃない。
好きだと自覚したのはもうずっと前だ。
たぶん幼稚園の頃からだと思う。
幼稚園の先生や親に「好きな子はいるの?」と聞かれて、毎回「花道」と答えていた。
女の子は?と聞かれても全然興味が無かった。
ベタベタくっついてきて、おままごとばかりしようとする気持ちが分からなかったし。
その点、花道といるのは何より楽しくて仕方なかったのだ。
考え方も似ているのか、たまに双子みたいだといわれる事も嬉しかった。
でも花道は人気者だから、友達が多かった。
だから独り占めしたくても出来ない。
必ず側に誰かがいるから。
流川には、花道を独り占めする理由が無い。
花道はみんなの花道なのだ。
その時だろうか、ようやく「幼馴染」だけじゃダメなんだと気付いたのは。
ただ好きだと思っていた頃を抜け出し、流川はようやく花道を独り占めする方法を思いついたのだ。
本当は告白してからキスするべきだったが、多少順番が入れ替わったところで特に問題は無いだろう。
どうせ到達する結論は両思いでラブラブなのだから。
「あのどあほうめ……」
そこで流川は、そっと両手で股間を押え、思い出したように顔を顰める。
あの膝蹴りは正直かなり効いた。
ほんの少し勃ちかけていたので、なおさらだ。
花道は全く気付いていないだろうが、流川はもうとっくの昔に精通を済ませていた。
そして自分で分身を慰めてもう随分経つ。
だから昼間のキスなんて、毎晩こっそりオカズにしていた花道とのエッチな妄想よりも、うんと軽いものなのだ。
あれしきでビビッてもらっては困る。
流川の脳みそも花道とどっこいどっこいで、滅多にフル回転させて使うような機会も無い。
だが、ミニバスのコーチが雑談で言っていたイメトレというものを実践するようになってからは、想像力だけは非常に豊かになっていた。
……本当はバスケ用に鍛えた筈のそれは、最近ではとみに花道用イメトレとして活躍しているのは秘密だ。
「今日もイメトレしねーと……」
目を瞑るとたくさんの花道の表情よりも、たった一つ。
昼間キスした時の花道がすぐに浮かんできた。
そして次第にそのシーンが再現されていく。
(ちんこの痛さで忘れてたけど、すんげえ柔らかくてアイスの良いにおいがしたっけ……)
あの時。
蹴られた痛さで何もかもがどうでも良くなっていたので、まさか花道が戻って来るとは思わなかった。
だから、そのチャンスを逃すまいと体が勝手に花道の口に吸い付いていたのだ。
しかしあの咄嗟の判断は正しい。
イメトレの効果だろう。
(やっぱイメトレって大事なんだな)
心の呟きなので誰も突っ込む者が居ないのは幸いである。
本当に一瞬の出来事だが、流川は懸命に思い出し脳内で何度もリピートしていく。
甘いにおいと共にお日様のような匂いも嗅いだ気がする。
全てが貴重な体験だ。
プチュッと交わされただけのキスでもまだちゃんと覚えているので、何度も何度も復習する。
そしてごく自然にキスの後の行動へもイメトレは進んでいく。
花道は実はとても少女漫画が好きなんだと知っている。
こっそり母親所有の少女漫画を読んでいると言っていた。
流川自身も面白いからと何度か(無理矢理)読まされたことがあった。
だから、とりあえず背景をお花畑にしてみる。
そしてそこにそっと花道を横たえて覆い被さってキスを―――。
ゴスッ!
顔を近づけた途端、流川の額に頭突きが炸裂!
ちょっと待て!と言おうとするが、その隙さえ見せず股間にこれまた見事な膝蹴りが決まり、最後には下から鼻フックまで頂戴してしまった。
『な、何かおかし…い……!』
そして気がつくと流川自身が花道に吊るし上げられていた。
『てめえ!俺様になんつーエッチなことをしてくれんだ、このキツネやろう!成敗してくれる!』
そこから先は訳の分からない状態になっていた。
やがて「夕飯よー」と呼びに来た母親が、脂汗を滲ませ魘されて寝ている流川を発見するまで続いていた。
結局イメトレは悪夢へと摩り替わり、流川は目が覚めた時、心底夢で良かったと胸を撫で下ろしていたのは言うまでもない―――。
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