【 秘密基地 2 】 (4)
『イメージトレーニング。略してイメトレだ』
コーチが休憩時間にチームメイトへ雑談として語っていた。
毎日寝る前に、様々な試合状況を想像し、自分は強いと念じながら眠るだけ。
そんなことで良いのかと、流川は思った。
それくらいなら出来そうだ。
なんせ実際に体を動かさないときでも練習時間に当てられるようなものなのだ。
その日から、思い出した時だけでもちょくちょくイメトレをするようになった。
そしていつの間にかイメトレの対象がバスケから花道へ移行したのだが、それは当然と言えば当然だった。
「………」
就寝前。
流川は口元をペロリとゆっくり舐めた。
そして指でそこに触れる。
(やっぱり全然違う…)
あの感触はもっともっと柔らかくて甘かった。
なぜグチャグチャに嘗め回さなかったのだろう。
舌を突っ込んでかき回して、唇に吸い付いて噛み付いて。
もっといっぱいやっとけば良かった。
(いや、でも痛かったし…)
今も思い出すと少々アソコがズキッとする時がある。
流石にあの痛みに耐えつつするのは難しかっただろう。
キス出来ただけでも儲けもんだ。
しかしあんなもんじゃ足りるわけが無い。
またしたい。
相変わらず流川はそんなことばかり考えていた。
やれば良かった、とか、やりたかった、とかそればかり。
まさに、出来なかったことを嘆いてばかりだ。
(イメトレが足らねえのかも…)
きっとまだまだトレーニングが足らないのだ。
だからこうやって後悔ばかりするんだろう。
今日も花道と遊んだ。
やっぱり二人で遊ぶのは楽しい。
たまには他のヤツと遊びたいとブツブツ言っていたが、流川はそんな言葉はいつも適当に聞き流している。
途中具合が悪くなったと花道が言ったけれど、帰る頃にはすっかり元気になっていた。
二人きりでバスケして良い汗を流す。
これ以上無いくらい楽しい。
やっぱり花道が大好きだ。
「あ……」
流川はそこでようやくとても重要なことに気がついた。
「返事貰ってねえ」
告白したのに返事を貰うのをすっかり忘れていた。
答えはイエスに決まっているのだが、本人の口からきちんと返事を聞かなくては意味がない。
そして夏休み明けには手を繋いでラブラブな登下校を実現しなくては!
「周りの奴らにちゃんと分からせねえと」
お付き合いしています宣言をはっきりとしておかないと、花道の友人達はまた群がってくるに違い無い。
「明日は絶対言わす…!」
そう心に決めた流川は、今晩も早速イメトレに励む。
記念すべき日になるのだ、一瞬たりとも気が抜けない。
『どあほうは俺のモノ』
一心不乱に念じながら、今晩も流川はいつの間にか深い眠りについていた。
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