【 秘密基地 2 】 (5)
今日は珍しく、本当に珍しく花道が流川の家に遊びに来ていた。
いつもは有無を言わさず流川が花道宅へ押しかけ……もとい、訪ねるのが常なのだ。
しかし今朝「今日は大事な話があるからうちに来い」と流川から呼び出しがあった。
今日は流川家はみんな外出していて留守なのだ。
「人を呼び出すとは良いコンジョーしてるじゃねえか」
思い切り不機嫌で、それでも素直に流川宅へやってきた花道。
迎えた流川は逃がさない!とばかりに花道の背中をグイグイ押して二階の自室へ連れ込んでしまう。
部屋はヒンヤリと心地よく冷えていた。
「あ!流川!この前買ったゲームやらせろ!」
部屋の隅にあったそれを目聡く見つけて、花道は持ち主の許可も得ずにとっととセットしてしまった。
「どあほう!」
「なんだよ」
「話があるって言った」
「あーあー話な。これ終わったら聞いてやるよ」
既に興味の対象がゲームへ向かってしまったのか、生返事の花道。
「………」
さすがの流川もこれには腹が立つ。
ジーッと横顔を恨めしそうに睨んでいると、花道が大袈裟に溜息をついた。
「わかったよ!聞くよ!聞いてやりますよ!」
ただしゲームやりながらだぞ。
そう宣言すると、ゲームをスタートさせた。
そんな花道にムッとするも、とりあえず話しは聞いてくれるようだから、ここはよしとする。
「で?なんだよ、話って」
促され、流川は話始めた。
「返事貰ってねえ」
「あ?返事?何の」
「好きって言ったやつ」
「へ!?」
直球ストレートな台詞に、花道はすっとんきょうな声を出し、思わず必要無い場所でAボタンを押してしまった。
ゲームの中でキャラが技を繰り出す。
「な、なななななんだよ返事って!」
思い切り動揺しつつとぼけると、流川が隣に座って「好きって言ったから、その返事」と花道のコントローラーを奪おうとした。
しかし大人しく奪われる訳にはいかない!と流川の手からコントローラーをガードしつつ、「そんなの知らねえ!」と言ってしまった。
「………知らない?」
「うぅぅ……」
ポツリと呟く流川。
流石に今のは失言だったか。
花道がそっと様子を窺うと、流川は俯いた。
「あ…るか―――」
「俺はずっとおめーが大好きだった」
花道の言葉を遮り、静かに言う。
「幼稚園ん時からずっとそうだ。どあほうを独り占めしたくてしたくて仕方無かった。でもどあほうはバカみてえに明るくて人気あって、いつも周りに人が居て、全然独り占めできねえ」
バカって何だ、と思ったが口を挟めるような雰囲気ではない。
「今だってそうだ。ちょっと余所見してる間にどあほうの周りには人間がいっぱい寄ってきて、俺の居場所がどこにもねえ。俺はいっつもお前んこと見てるのに、お前は俺のこと見てねえし」
「んなこと無い……」
「ある」
俯いたまま流川はキッパリ言う。
「んで、独り占めするにはどうしたら良いのかって考えた。そしたら告白して付き合ってキスしてエッチなことして一緒に手繋いで登下校すれば良いって分かった」
「どんな分かり方だよ!」
黙っておれず思わず突っ込む。
勝手に自己完結しないでくれ。
しかし花道の思いも知らず、流川は続ける。
「どあほうは鈍いくて分かってねえだろうから教えてやる」
「鈍いって何だよ、余計なお世話だ!」
「お前に寄ってくるやつらはみんなお前のカラダが目当てなんだ」
「は?」
何を言い出すんだコイツは。
「同じクラスのヤツらも隣のクラスのやつらもみんなそうだ。あとミニバスのやつらも」
「待て待て!なんでそうなんだよ!」
「決まってる。アイツらどあほうをいやらしい目で見てた」
「いつ?!」
「いつも」
あまりのことに花道は顔が引き攣る。
「なんでそうなんだよ!それはお前だろ!」
「俺は良いんだ」
どういう理屈だ!花道は頭が痛くなってくる。
「どあほうが不安がるだろうと思って黙ってたが……」
なにやら不穏な気配がしてくる。
今度は一体何を言い出すのか。
「夏休みに入る前のプール」
「おう………」
「あんとき、アイツらお前とくっついてた」
「くっついてた?」
「背中にしがみ付いたり、足触ったり胸触ったり腹触ったり―――」
「ええ〜?!いつの話してんだよ!」
「最後の授業んときだ」
そう言われて、脳みその引き出しをかき回して探し出す。
「一時間まるごと自由だった時のことか?」
そう言うと流川が頷く。
「うーん??」
眉を顰めて花道はその日のことを思い出した。
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