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【 秘密基地 2 】
  (6)













 確かその日は夏休みに入る前の最後のプールの日だった。

 その前までは普通に授業をやっていたのだが、学期最後ということで先生が粋な計らいをしてくれたのだ。

 一時間丸ごと自由時間になり、プールでは生徒達が好きなように遊んでいた。

 体育の先生は怪我の無いよう、それをずっと見回りしていたのだ。

 花道はその時も当然みんなの輪の中心に居た。

 流川も勿論一緒に居たが、独り占め出来るような状況ではまるで無く。

「しがみ付くって、あれのことか?プロレスの……」

 他にもシンクロの真似とか鬼ごっことかしたような気がする。

「あれは遊んでただけで―――」

「違う。遊ぶと見せかけて触ってたんだ」

 言い切る流川に呆れてしまう。

「それにもう一つ。お前は分かってねえことがある」

 花道は眉を顰めた。

「なんだよ」

「お前、俺の背中にもしがみ付いただろ、あんとき」

「………おう」

 躊躇いながら頷く。

 それがどうしたんだ。

「あの時、ココ勃った」

 そう言って流川が己の股間を指差した。

「はあ??!!」

 驚きのあまり花道は声が高くなってしまう。

 流川の顔と股間を視線が往復してしまった。

 大丈夫か、こいつ。

「他のヤツと遊ぶの見てたら、背中とか胸とか触らせて肩まで組んで平気な顔しててムカついて仕方なかった。そしたら今度は俺の背中にべったりしがみ付いてきやがった。そんときお前の股間が俺の腰に当って、そしたらもう勃ってた」

「…………」

 花道は思わず無言になった。

 そしておぼろげながら思い出す。

 みんな楽しく遊んでいるのに、一人ノリが悪かった流川。

 そんな流川にも輪に入って欲しくて「おんぶしろ!」とジャレついたのだ。

 確かに背中から全身を使って流川にしがみついた。

「ちょっと待て!あれはただおんぶしろって言っただけで……」

「あの後プールから上がるの、大変だった」

「あ……」

 そういえば流川は腰をかがめて歩いていたような気がする。

「着替えるのも大変だった」

 重ねて言う。

「最後の授業だけじゃねえけど。プールん時はいつも着替える時ヤバかった」

 花道の生着替えを毎回隣で見ながら着替えるのだ。

 あれも一種の拷問と言うのだろうか。

「そんなの俺が知るか!」

 自分は何もしていないのに、責められるのは理不尽だ。

 次々と並べられて行く出来事に冷や汗を浮かべつつ、花道は反論する。

「俺は何もしてねえ!全部お前の思い込みだ!妄想だ!」

「妄想じゃねえ。どあほうが分かってないだけだ」

 だから俺が親切に教えてやったんだ。

 なんだか偉そうな流川。

「何エラそうに言ってんだコラ!」

 花道はもう相手してられないとばかりに、ゲーム画面に向き直った。

 しかし既にプレイヤーキャラクターはロストした後だ。

「お前が変なこと言うから終わっちまったじゃねえか!バカルカワ!」

 もう一度やり直そうとコントローラーを握りなおす。

 しかし気が付いたら目の前に天井が見えた。

「へ?」

 何が起こったのか理解する前に背中と後頭部の痛みに気付く。

 そして直ぐ目の前に流川のドアップが迫ってきた。

「うわーっ!」

 驚いた花道は流川の顔を押し戻そうとする。

「やめろー!」

 すると流川はぐぎぎぎっと顔を押されつつ、花道の上になおも圧し掛かっていた。

「どあほう!キスさせろ!」

「いーやーだー!」

「あん時、もっともっとグチョグチョに嘗め回しとけば良かった。だから今する!」

「なんだよそれはー!意味わかんねえし!ふざけんな!」

「好きなんだから、させろ!」

「絶対イヤダ!」

 そういうと「だったら返事をしろ!」と花道に別の意味で迫る。

「やだ!」

「返事しねえとグチョグチョのヤツする!」

「冗談じゃねえ!」

 顔を赤くして嫌がる花道と、彼に迫る流川。

 二人の攻防は直ぐに終わりを告げる。

「こんのヤロウ!!」

 そう言っていい加減ブチキレた花道は、流川の頭をワシッ!と掴み引き寄せ、同時に驚くべき腹筋で起き上がり―――。


ゴスッ!


 流川の額に超ド級の頭突きを一つお見舞いしてやった。

 そして「ルカワのくそったれー!」と罵声を浴びせ、流川を跳ね除け部屋を飛び出した。

「どあほう!!」

 額を押さえ蹲る流川は、ついでに跳ね除けられた反動で後頭部を壁にゴツンと打ち、後頭部までも押える羽目になった。

「どあほう!逃げんじゃねー!!」

 痛みを堪えながらも大声で叫ぶ。

 すると階下より「うるせー!バーカ!」と怒鳴る声が聞こえてきた。

 そしてその後には。

「お前なんてなぁ!!嫌いの反対の、反対の…、反対、に決まってんじゃねーか!バカやろう!このクソギツネー!」

 という怒鳴り声が聞こえてきた。

 流川は言われた台詞を思わず反芻する。

「嫌いの反対の、反対の、反対?……………あっ」

 流川はガバッと勢いよく起き上がり、大慌てで階下へ降りた。













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