【婿入り宣言!】 (2)
「ここで和菓子の修行をさせてくれませんか?」
流川は唐突に言った。
ぎっくり腰が治らない健一郎は、布団に入ったまま流川と対面したが、いきなりの台詞に目を剥いた。
その場にいた花道でさえも、とっさに言葉が出てこない。
「自分の可能性を試してみたいんっス」
「………。若けぇ奴は考えが甘い」
花道より先に我に返った健一郎が言った。
「良いか?和菓子の修行は一生もんだ。ただの好奇心なら、よそ行きな。それに俺は手取り足取り教えたりしねー。技は自分で盗むもんだ」
「……」
「それと、こりゃ家の事情だが……」
コホンと一つ咳払いをして、荘一郎は続ける。
「将来俺の後を継いで婿養子に入る奴でなけりゃ、弟子にはしねー」
「…………。望む所っス」
流川は口元を微かに緩めて、あっさり答えてしまった。
「何だってーっっ?!!!」
我に返った花道が、ようやく反応した。
ちょっと待て!!何を言ってるんだ、こいつは!
「花道…。お前何時の間にそんな約束まで…・・」
「してねーよ!!変なこと言うな!」
我に返った花道の頭の中は、パニック状態になってしまった。
一体どうなってるんだ??
流川は、健一郎に会わせれば分かると言っていたが、これじゃ益々分からない。
さっきは修行がどうこう言うし、今度はこいつが家の婿養子になるって?それってつまり…………。
花道は冷や汗をかいていた。
訳が分からないどころか、余計に複雑化しているような気がするのは、自分の気のせいか…?
一方健一郎はと言えば……。
(こりゃまさにタナボタ≠カゃねーか♪)
と、内心ホクホク顔だったりする。
いやはや……。
「しょうがねー。そこまで覚悟が出来てんなら、とりあえず様子を見よう」
内心を隠して告げる健一郎に流川は、
「ありがとうございます、 お義父さん =v
と、深々と礼をしていた。
しかし、
「勝手に話しを進めるなーー!」
何がお義父さん≠カゃー!!!
と、花道が叫んでいたのは言うまでもない。
* * *
人生最悪のあの日から、早一ヶ月。
流川は『桜木屋』で修行している。
修行と言っても当然部活がある訳だから、そんなに頻繁に来れるわけではない。
ましてや最初のうちは、和菓子の「わ」の字も知らないズブの素人だから、健一郎の和菓子を作る様子を見てることから始めないことには、どうにもならない。
『どうせ途中で飽きて止めるだろう』
と、高を括っていた花道は、流川の本気を見たような気がして少し動揺していた。
一方流川も色々考えを巡らせていた。
自分でも何でこんなことをしようと思ったのか、良く分からない。
でもただ一つ言えるのは、花道の側に居たいということ、それだけだ。
流川はやっと気が付いたのだ。
自分は桜木花道が好きなんだと。
彼の顔を見てるとどうも心臓がズキズキして、体の極一部がムズムズしてくる……。
最初のうちは原因が全く分からなかった。
でも何故かある日唐突に自覚した。
『桜木花道が好きだ』と………。
だから婿養子の話を聞いて、黙っていられなかった。
他のヤツに譲ってなるものか!!流川は本気でそう思ったのだ。
だから今ここにいる。
花道の側に…。
『何でだよ。なんでこんなことする気になったんだ?』
以前花道に一度こう聞かれたことがあった。
彼にしてみれば当然の質問だろう。
だが流川は明確な答えは出さなかった。
真実を告げるのはまだ早いと思ったからだ。
まだ始まったばかりの関係だから、急ぐことは無い。
なんせここは花道に一番近い場所なんだから。
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